永遠に・・・ 「本当によかったのか?この艦に残ることにして・・・」 「・・・・ええ。皆残るのにぼくだけって変ですし。それにここまで関わっちゃっていまさら普通に戻るのは無理ですから・・・・」 キラは、アークエンジェルに残ることになった。あの時迷っていたのは事実だが、降りるつもりでいた。皆と一緒に。 けれど、友人たちはフレイとともに残ると言い出し・・・。降りろと言われたが、自分には出来なかった。 ―きっとアスランにこのこと言ったら怒鳴られて、呆れられるんだろうな・・・。 ふと思ったのは、決別した友のこと。順位なんてつけてはいけないだろうが、でも1番の友人。 「ところでキラ。これからちょっと俺の部屋で反省会みたいなのしないか?」 「反省会、ですか?」 「そう。さっきの戦闘の反省とか、よかったところとか出し合って次の戦闘までに直していく。なんせこの艦を守れるのは俺たち2人だけだからな」 フラガはキラに近づきながら、軽く言う。 キラは少し考え、返事をした。 YES、と―――――――― 「で、ここの動きが少し無駄だな。あと、ここはいい動きだよ」 「ありがとうございます。・・・ここはこうしたらもっと・・・」 2人の反省会は続く。 悪いところもいいところも出し合いながら。 全てはアークエンジェルを守るため。戦争を終わらせるため・・・・。 少ししてから、大体の検討を終えた2人は、雑談をしていた。 「でさ、あん時だけは俺びびったね。まじで死ぬかと思ったもん」 「はは・・でも助かったんですよね」 「当たり前だろ!!じゃなきゃここにいないって」 楽しそうに2人は話す。フラガは、自分の過去の体験談を面白おかしく話していた。聞きながらついつい笑みをこぼしてしまう。 しかし、フラガは知っていた。これはまだ完全なる笑みではないことを。 キラが本当の笑顔を見せるのはたいてい1人のとき。キラの鳥形ロボットと戯れているときだけだった。心から笑っていると遠目からでも窺えるくらい綺麗だった。 「キラは、子供のころとかどんなことしてたんだ?」 「・・・・・親友と毎日遊んでましたね。ぼくおっちょこちょいだからよく笑われてたけど・・・」 「へえ・・・・・」 フラガは内心あせっていた。キラの触れてはいけないこと触れてしまったと気付いて。 答えるキラの表情はとても切なく感じた。きっとその親友はコーディネイターなのだろう。改めて自分たちが情けなくなった。こんな子供に、戦争させている自分たちが・・・・。 「あ、キラ!!こっちで一緒食べよう!」 呼ぶのはミリアリア。キラがこの艦に残ることになった理由の1人。周りには彼氏のトールやカズイもいる。 キラは少し微笑むとそちらに即向かった。 「今休憩?」 「うん。もう艦長とか、特に副官長はさ、正規の軍人になってますます厳しくなっちゃった」 「怖いぜ〜怒鳴られたりしたら・・・」 「キラも気をつけなよ?にらまれたら一貫の終わりだから・・・」 「ははは、気をつけるよ」 カズイの遠い目を見ながら、キラは苦笑した。 そのまま立ってるのもどうなので、キラは食事を取り再び彼らのところに行った。 「キラ・ヤマト。話がある。食事が終わったら即艦長室に来い」 楽しく食事をしていると、先ほど噂をしていたナタルが扉で叫んでいた。 「・・・・何したんだ!?バジルール少尉じきじきに呼び出しするなんて・・」 「・・・ぼくに聞かれても、わからないよ・・・」 「とりあえず、早めに言ったがいいと思うわ・・・」 「・・・うん、そうだね・・・」 食事はほぼ食べ終わっていた。キラは、トレイを返すと、友人たちに一言言って艦長室へと向かった。 トントン 「キラ・ヤマトです」 「どうぞ、入りなさい」 「・・失礼します・・・」 部屋に入ると、艦長であるマリュー以外に、ナタル,そしてフラガもいた。それぞれこの艦の最高責任者たちだ。そんな大物たちが雁首そろえてなんなのだろうか、とキラは思った。 「ごめんなさいね、キラくん。突然呼び出したりして」 「・・あ、いえ・・・」 「今回はちょっと作戦話をしようと思ってね・・・」 「作戦・・・話ですか?」 「そう」 あのナタルまで何かを確信したように笑った。 「これから我々が行うミッションだが、これは次にザフトが攻めてきたときに行う」 「はあ・・・・」 「そこでだ、俺たちは2機。だが向こうさんは4機。もしかするとそれ以上だ。俺たちの勝ち目はかなり低い」 「はあ・・・・」 「そこで我々は、1機のガンダムを落とすことにしたの」 「・・・ガンダムを・・・落とす・・?」 「そう。落とす機体は、イージス」 マリューがそう言った瞬間、キラは目を見開いていた。彼女が言った言葉を信じたくなかった。イージスを落とす=アスランを、殺す・・・・。目の前が暗くなった気がした。 「・・・それって、もう決まったことなんですよね・・・・」 「ええ。上からの命令でもあるの。それで・・・」 「・・・ぼくに討てと?」 「ええ。他の3機はフラガ大尉に惹きつけてもらいます。その間にイージスを誘い込み討ってもらいたいの」 見ると、ナタルもフラガも瞳で同じ事を言っている。きっとあの4機の中で1番イージスが厄介なのだろう。 「・・・・・わかり・・ました。次の戦闘で・・・・イージスを、討ちます」 「ありがとう、キラくん」 「援護は任せとけよ!!キラ」 「右に同じだ。キラ・ヤマト」 3人は嬉しそうに言ってくる。 キラはその中で表情とは裏腹に、心が冷たくなるのを感じた・・・。 「キラ・ヤマト。ガンダム、行きます!!!」 あれから数時間後、ザフトは襲ってきた。もちろん、ガンダム4機で。 キラとフラガは出撃し、即作戦に移った。 イージスを落とすための、作戦に・・・・ 「トリィ・・・君ならぼくの気持ち、分かってくれるよね?」 「トリィ?」 「・・・ごめんね・・・もう、この方法しか・・・・ぼくには選べないから」 キラは、パイロットスーツの中に隠したトリィを肩に乗せ、一気に宇宙空間を駆け抜けた。イージスの元へと・・・・。 「キラ!!今だ!!イージスをAポイントに誘い出せ!!」 「はい!!フラガ大尉、気をつけて」 「お互いな」 「今まで、ありがとうございました・・・。どうか生き残ってください・・」 「え・・?」 最後のキラの呟きが聞き取れなかったフラガは、聞き返すが、すぐに思考を切り替えデュエルやバスターの相手をした。 心に一抹の不安を残して・・・・・。 「アスラン、ここで決着をつけようよ・・・」 『・・・・いいだろう・・・』 通信から聞こえてくる声。3年ぶりにあったのは、戦場で。次に会ったときは敵同士だった。 「戦う前に少しだけ話しようよ・・・」 キラはいい逃げするように、アスランとの通信を切りハッチを開ける。アスランも最初は戸惑っていたが、キラが本気なのを知り、ハッチを開いた。 「・・・久しぶり、アスラン」 「・・・・そうだな、キラ・・・」 言いたいことはたくさんあった。けれど、いざその場面に立つと、何もいえなくなる。涙があふれそうだった。 「ごめんね・・・君のところへいけなくて・・・」 「!!・・・・・今更、それを言うのか!?」 アスランが起こるのは無理ないな、と思いながら、キラはアスランに、イージスに近づく。 ―「キラ?何をしているの!?」 ―「キラ・ヤマト!!作戦を実行しろ!!フラガ大尉のほうはあと5分が限界だ!!」 耳元にアークエンジェルからの通信が入る。ミリアリアと、ナタルだ。自分の不可思議な行動に驚いているようだ。 「あと、5分か・・・・」 「・・?キラ、お前何を・・・」 つぶやき、全てを問いただされる前に、キラはアスランに抱きついた。アスランはいきなりのキラの行動に固まってしまった。 「キ・・・キラ?」 「・・・・アスラン。君はぼくが討つって言ったよね?」 「・・・ああ。俺がお前を討つとも言った・・・」 「・・・もうね、疲れちゃった。戦うことも、喋ることも、生きることも・・・・」 「・・・・・・」 キラは、アスランから体を離すと、微笑んだ。その瞳は、いつの間にか涙で濡れていた。 アスランは、昔のくせでキラの体を慰めるために抱きしめようとしたが、それは出来なかった。 パンッ 何かがはじけた、しかし小さい音が響いた。アスランは、目を見開きキラを見つめていた。いや、睨んでいた。 「・・・な、ぜ・・・キラ」 「ごめん。ぼくに出されたミッション。イージスを落とすこと」 「キラ!!」 「・・・・・・でもね、ぼくもういやなんだ。だから、終わらせようと思って・・・」 キラがこちらに近づいてくる。打たれた箇所は、ばっちり急所で。薄れていく意識の中、キラに撃たれて死ぬのだから本望かもしれない、と思っていた。 「トリィ!!」 「・・・トリィも、一緒に行こう・・・。アスラン、ぼくは君が死ぬとき死のうって思ってたんだ・・・」 「・・・キラ?」 涙で顔をぬらしながら微笑むキラは、アスランを撃った銃をアスランに持たせ、迷いもなく自分の腹部を撃った。 「キラ!!・・・何・・して・・!?」 「・・・アスラン、一緒に行こう。行って、いっぱい遊ぼ・・昔みたいに・・・。今度はトリィも一緒に3人で・・・」 「キラ・・・・」 キラは、アスランに抱きつくように身を寄せ、トリィの起動プログラムを停止させた。耳元からは、たぶん艦からの通信が入っているのだろう。悲痛な叫びが聞こえる。 ―「キラ?キラ!!・・・・イヤーーーー」 ―「キラくん!?キラくん、何をやっているの?・・・・フラガ大尉、キラ・ヤマトの元へ至急向かって!!様子がおかしいの」 キラは、それらの、自分への通信を無視し、アスランに微笑む。 アスランも、自然と微笑んでいた。 「そうだな・・・・昔みたいに、トリィも入れて3人で遊ぼう。朝も、昼も、夜も・・・」 「・・うん・・・」 そうして、2人は抱きしめあうと、静かに目を閉じた。 『アスラン!!応答してください、アスラン!!』 『キラ!!・・・おい嘘だろう?キラ!!キラ・ヤマト!!』 『アスラン、何をやっている!!さっさと・・』 『・・・・・嘘、だろ・・?』 それぞれのパイロットたちが叫ぶ中、2人は何物にも邪魔されない世界へ、行った・・・・。 それぞれに、いろいろな思いを残して・・・・・ 「・・・・・アスラン様?・・キラ様?」 遠いプラントで、久しぶりの休みを過ごしていたラクスは突然襲ってきた胸の痛みと溢れ出す涙であの心痛む2人の名を無意識につぶやいていた。 「・・・・お2人は今も戦っていられるのでしょうか・・・」 彼女が真実を知るのは、すぐ先のこと・・・・ 「ラクス様ー、大変でございます!!」 「どう、なさったのかしら?」 いまだ止められない涙を拭くこともせず、扉へと向かう。 2人の死を知るために――――― |