secret school life 1


どうしても・・・・一緒にいたいんだ

今更離れることなんて出来ない

ずっと皆で頑張ってきたんだぜ!

父さん達には悪いけど、空気みたいに自然な存在なんだ

もう、なくては生きていけないの

皆がいて初めて一人前なの

だから、お願い





子供達の願い。まだまだ可愛い我が子を手放したくない大人たちには到底頷けないものであった。

しかし、彼らの表情は、視線は、強く、今までで一番強く望んでいる。

子供の成長は早いとよく言うけれど、本当にそうだと。このときほど強く感じたことはなかった。

自分たちの仕事が忙しく、子供達をおろそかにしてしまった事実は決して消せはしない。後悔しているかと問われれば、確かに後悔している。しかし、そのお陰で一生の内に出会えるかどうか分からない最高の友人を子供たちが手に入れた事は確かだ。

歳にしてまだ十二、三の子供達。

その彼らが、親の手を離れ、六年間教育の学校へ進学するという。そこは都会で、どうしても家を出なければならない。

どれだけ反対しようとも、鉄のように強い決意をしている子供達には、きっと敵わないのだろう。

ならば、自分たちのする事はただ一つだけではないか。




絶対に、途中で戻ってこない?

全員で力を合わせて乗り越えていける?

その意思を貫き通すことはできる?





杞憂だといわれようとも、問わずにはいられない。止められないのならば、背中を押すだけだ。しかし、そこに不安がないはずないのだ。

大切な、愛しい子供達だから。

世界に一つしかない、宝物だから。




大丈夫だよ!!

誰かが危なくなっても、皆で支えるもん!

僕たちは、一人じゃないから。

それに、夏期休暇とか年越しは戻って来るんだし。

そうそう!一年の内の最大イベントは、家族みんなで過ごさねーと!

だから、心配しないで

父さん達が思ってるほど、僕らも子供じゃないよ





口々にいう子供達の瞳はきらきらと輝いていて。

そんな彼らの表情は、同年代の子供に比べてかなり逞しいものだった。

ませている、という考えが頭に過ぎらないでもなかったが、きっと大丈夫。この子供達ならば、きっと大丈夫。自分たちがいなくても乗り越えていける。

それに、こういうのを親が真っ先に応援してあげないで誰が応援するというのだろうか。




飛び立つ子供達。

どうか、その旅路が光溢れるものでありますように。

遠いこの地で、いつもあなたたちの無事を祈っています。だから、頑張って。




《続く》



















secret school life 2


車が行き交い、多くの人々が行き交う。歩く人々の表情は一部を除き、時計と睨めっこをしていたり、妙に苛々していたり、無表情であったり、様々だ。ほとんどの者が“一人”であった。

そんなこの地、ヘリオポリスに、今日初めて足を踏み入れたまだ幼さが抜け切らない子供が7人。

彼らは都会の喧騒を初めて目にしたためか、言葉を失っていた。ただ、食い入るように目の前にある世界を見つめていた。



「これが・・・・都会。ヘリオポリス」

「・・・・・・なんっか・・・・・忙しないというか、無機質というか」

「今日からここで、私たち生活していくんだね」



一瞬、選択を誤ったかも、という考えが過ぎったが、それは一瞬のことだ。

しかし、ポツリとこぼれた感想は、期待に胸を膨らませていた子供たちのひた隠しにしていた不安を呼び覚ましてしまったようだ。

それもそうだろう。なんせ彼らは生まれてこの方一度も住んでいた町を出たことがない。月都市、コペルニクスから。彼らの世界はコペルニクスだけだったのだ。

コペルニクスは、車が行き交う大通りなどない。通行手段は例外を除いて徒歩だ。ヘリオポリスのように“一人”ということもない。町全体ほのぼのとした、温かい雰囲気で覆われている。

また、車の交通量が極端に低いので、空気がどこの都市よりも美味しい。水もそうだし、農作物だって言うまでもない。

所謂田舎なのだが、その田舎で育ってきた子供たちにこの都会はちょっとしたカルチャーショックを与えた。



「・・・・空気悪いわ」

「しょうがないさ。車の通りが多いからね」

「そういえば・・・・・迎え来てくれるんだよね?」

「ああ。・・・・・・父さん忙しい人だからもしかしたら秘書の人が来るかもって言ってたけど」



微妙にはっきりしないんだよ、と申し訳なさ半分、憤慨半分で問われた子供は答えた。一人だけ父親が政治家で、この都会に家を持っている子供がおり、7人はその家のお世話になることとなっている。

約束の時間は過ぎているし、ここでずっと立ったままというのも通行の邪魔になりかねない。どうしたものかと7人が頭を捻らせたその時、後方で車のクラクションが鳴った。

振り向くと、黒塗りの高級車が子供達の後ろに迫っていた。



「うわっ!?」

「ぇ・・・・・もしかして・・・・・」



驚く子供と、仮定を立てた子供。

双方共に若干引きつり気味だ。



「お待たせして申し訳ありません、お迎えに上がりました」

「あ・・・・えっと。父さんの」

「はい、秘書の者です。先生は急に用事が入りまして」



颯爽と車から降り立った男は、柔和な笑顔と共に子供達に頭を下げた。

申し訳ありませんでした、と。再び謝罪を口にし、彼は子供達の荷物をトランクに積める。そして、車の中へと誘導した。



「ありがとうございます」



口をそろえて子供たちが言うと、秘書の男は柔和な笑みをより一層深くした。そして、車が発進する。

目的地は、これから子供たちが住む家。子供達の城だ。



きっと大丈夫。自分たちはやっていける。

だって、皆がいるんだから。支えて、支えてくれる人がいるんだから。




《続く》



















secret school life 3


春を迎えた。春といえば、学校では新しい学年に進級する季節だ。

出会いと別れ、同時に襲ってくる季節でもある。





コズミック・イラ学園SEED科に通うキラ・ヤマトは、腰近くまである長い髪を束ねる事無く風の自由にさせながら、急いでいた。

今日は、始業式なのだ。

ヘリオポリスに来て今年で四年目。学園でこなす過程も残り二年分となった。

最高学年の一つ下とはいえ、ほぼ最高学年に近い学年に進級する今日という日に遅刻など、許されない。

桜の花びらが舞い散る並木道を、キラは全力で駆けていた。

遅刻決定となるまで、残り五分。

学園校門まで、全力疾走してぎりぎり四分。

キラにとっては何度目かになる正念場であった。

前方には既に悠然とそびえる学園の門が映る。そのせいかどうも気が急いてしまうのだ。

こんなときほど自分を起こしてくれなかった“家族”たちを恨まずにはいられない。たとえ八つ当たりだとしても。










「はぁ、はぁ・・・・・間に、あった・・・・」



呼吸が苦しい。久しぶりにこんなに全力で走った。

肩で呼吸をして、何とか整えようとするが、なかなか上手くいかない。

前学年時のクラスへ行くと、そこには久方に会うクラスメイトの顔が鎮座していた。皆、数週間ぶりに会う級友との交友を余す事無く深めている。教師が教室に入ってきたら、クラスが発表されるから、夏期休暇明けよりもそれは酷いだろう。



「おはようございます。ぎりぎりセーフでしたね、キラ」

「ニコル君、おはよう」

「また、寝坊ですか?」

「うん・・・・起こしてもらったっぽいけどまた、ね」

「キラらしいです」



緑髪の温和なく少年ニコルは、いつものことだというのに笑うことをやめなかった。笑われるのはどうにも癪に障るので、キラは不満そうに頬を膨らます。それに気付くと、ようやくニコルは笑うのをやめた。



「また同じクラスだといいですね。イザークも、ディアッカも」

「そう、だね」



昨年度同じクラスになり、入学当時からずっと同じクラスであるニコルの伝で仲良くしてくれるイザークとディアッカ。今彼らは生徒会自治執行部室にいる。役員なのだ。役員は始業式の進行を一任されている。きっと今頃忙しいのだろう。

ニコルも執行部の一員だが、今日は仕事がないらしい。まあ、中枢を担う役ではないからだろう。

朝から大変だな、と。少々ずれていることを思っていると、教室の扉の後方がざわめいた。

反射的にそちらに視線をやるニコルとキラ。そこには、赤髪の少女が鞄片手に自分の席についていたところだった。



「彼女、遅刻すれすれだったんですね」

「そう、みたいだね」

「・・・・・・相変わらず一人ですね」

「総長さんと付き合うようになってから、特にね」



キラの言葉に一瞬にコルの顔が歪む。ニコルは、彼女のことを好ましく思っていない。それは、このクラス中、いや、全校生徒のほとんどがそう思っているだろう。

もともと華やかで、整った顔つきをしていた彼女は、みんなの中心にいたのだが、現総長、つまるところ生徒自治執行部の最高権力者と付き合うようになってたからもともとあった自己中的な部分が顕著となった。そのお陰で、彼女のそばには人がいない。

ニコルは、かなりの総長信者で、どうして彼が彼女を選んだのか分からないとよく憤慨している。今でもそこだけは許せないでいるらしい。



ふと、一瞬、キラと彼女の視線が絡み合う。ほんの刹那的なコンタクト。



うっすらと口元に笑みを浮かべた彼女は、何もなかったようにその視線を外し、鞄の中から小説を取り出した。キラも口元に笑みを浮かべニコルの話に相槌を打つ。




誰にも知られてはいけない。

知られてしまったら、もったいない。

これは、自分たちだけの絆。

誰にも、分からない、自分たちだけの絆。




《続く》



















secret school life 4


もうすぐ連休ということで、クラスの雰囲気は浮ついていた。

仲のいい友人同士では、どこに行こう、何で遊ぼうという話で盛り上がっている。

キラと仲のよいイザーク、ディアッカ、ニコルもまた、どうキラを誘いどこに行き何をして遊ぶのかと3人で顔を突きつけて話し合っていた。

連休まで後1週間。

それまでに完璧なプランを立てて、キラを誘い出さなければならないのだ。



彼らの頭には、キラが誘いを断るという考えは存在しなかった。













連休まで残り4日の放課後。帰りのHRが終わり、キラは急いだ様子で鞄に荷物をしまっていた。

今日はキラの買い物当番の日なのだ。タイムセールに間に合わせるためにはこのままスーパーに直行しなければならない。

全速力で。

だから、キラは焦っていた。



「キラ、ちょっといいか?」

「え・・・・何?」

「今度の連休なんだけどさ」

「一緒に海行きません?」

「ありがとう、でもごめんね。連休は家族と一緒にいるって決めてるから」

「家族と・・・・ですか?」

「うん。だからごめんね。誘ってくれてありがとう」

「いや・・・」

「それじゃあ、僕急ぐから行くね」



にっこりと、何も文句が言えない笑顔を浮かべキラは早々に教室を去っていった。

残された3人は、目を瞬かせてその場に立ち尽くす。それしか出来なかった。

それにしても。



「まさか、断られるとはな」

「・・・キラって、結構付き合い悪いですよね」

「大きな休みは絶対家族と旅行だしな。しかも行き先は教えてくれん」

「こう、ふとしたときに壁を感じちゃいますよね」

「ああ」

「同感だ」







そんな彼らの会話を耳にしたフレイは、何とか笑いをこらえて教室を後にした。別に挨拶を言う仲のものもいない。

教室を出たところで、ばったり隣のクラスのミリアリアたち数名と出くわした。

昨年クラスが一緒になった当時はよく話す仲であったが、今では犬猿の仲である。顔をつき合わせるたびに口論が始まるのだ。



「あーら、相変わらず1人なんですね、アルスターさん」

「あなたこそ金魚の糞のように取り巻き引き連れてるのね、ハウさん」

「なっ!!誰が取り巻きよ!!」

「あたしたちはミリアリアの友達よ!!」



フレイの言葉にミリアリアの周囲の友人たちは声を荒げた。しかしフレイは動じた風もなく綺麗に流す。



「それはごめんなさい。へー友達ねー」

「な、何よ!!」

「あんたなんて友達いないじゃない!!」

「それはあなたが見えていないだけでしょ。私には最高の友人、ううん、家族とも言うべき親友がいるわ」



言い切ったフレイの笑みは、普段の自信満々の笑みではなく、穏やかなものであった。思わず取り巻きと称された者達の動きがとまる。

フレイはそれを見とどめると見下した感の強い笑みを浮かべその場を去った。













「やっぱあの女嫌い!」

「あいつの友達って奴の顔を拝んでみたいわ!!」



フレイが去った後に口々に暴言を吐く友人たちにミリアリアは内心不快に感じる。しかし、それを表に出すことはない。表面では適当にその友人たちに相槌を打っていた。




《続く》



















secret school life 5


「あ・・・・」

「どうした?」

「アスラン・ザラとフレイ・アルスターだ」



友人の視線の先には今校内でもっとも様々な意味で注目されている2人の姿があった。

トールはふーんと一瞥すると、再び手の中にある漫画の単行本に目を落とす。

興味は、ない。



「トールよ、お前興味ないの?」

「ないね。誰が人の恋路・・・」

「だってよ、相手あのアルスターだぜ!」

「それが?」

「可愛いって有名じゃん。うちの学校の綺麗どころのうちの1人だぜ!」

「・・・・・・・・綺麗どころって、アルスター以外に誰がいんの?」

「えぇ!?お前知らねーの?」

「知らねー」



キッパリ即答すると、友人は信じられないような視線でトールを見つめた。

だが、すぐに得意げな表情を造る。



「安心しろ、教えてやるから」

「サンキュ」

「まずは、このクラスで言うと、アイドルのラクス・クラインだな」

「・・・・・・納得」

「で、大穴って言うわけでもないけどカガリ・ユラ・アスハも名を連ねてる」

「あの男勝りが!?」

「そう。・・・・・・あいつ、ザラの前では途端大人しくなるんだぜ」

「へぇ・・・・・」

「微妙な位置に、ミリアリア・ハウも挙がっているな」

「・・・・・・・・なんで?」

「賛否両論なんだよ。でも、あいつ家庭的だし気さくだし。俺は連ねてもいいと思うんだよなー」

「あっそ・・・・で?」

「ああ、えーと。後は隣のクラスのアルスターだな」

「それは聞いた。というかこの話の切欠じゃん」

「まあな。で、もう1人いるんだよ。隣のクラス」

「誰?」

「執行部の奴らに守られているキラ・ヤマト。あいつに近付く男は大抵3騎士に潰されるな」

「3騎士って・・・・?」

「イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、ニコル・アマルフィの3人」

「納得」

「だろう?けどあいつらって仲のいい友人同士なんだよな」

「へー・・・付き合ってるとかはないんだ」

「3人・・・特にイザーク・ジュールは相当お熱を上げてるらしく結構言い寄ってはいるらしいんだが、肝心のヤマトが一向に気付かんらしい」 「あー・・・・・なんか鈍そうだもんな、ヤマトって」

「オウ。で、噂ではヤマトには恋人がいるって話だぜ」

「マジ!?根拠は?」

「ヤマトっぽい子が休日スーパーで見かけられたんだ。男つきで」

「・・・・・・・・・見間違いの可能性は?」

「低いな。相手の男がキラって名前で呼んでたらしい」

「・・・・・・・・・・・・・へー。ていうかなんでお前そんな情報持ってるんだよ」

「伊達に報道部に属してないってことよ!!」



自信満々に言い切る友人にトールは呆れた視線を投げた。

内心、いい話を聞けたな、と今晩の夕飯の席での話のネタを手に入れたことを喜びながら。




《続く》