secret school life 6


「ただいまー」



返事は返ってこない。それはそうだろう。

殆どのものがまだ学校にいるのだから。そのうちの1人は買い物当番なのでスーパーで鬼神と化したおば様達と対等に戦っているだろう。全てはタイムセールス品の為に。



「今日の当番なんだったかなー」



日々の仕事は当番制になっている。それも、毎日交替の。買出しと、食事当番以外は洗濯や風呂掃除、塵出しなどで、ついいつなのか忘れてしまうのだ。

例外である買出しは、学校帰りに近所のスーパーでするため、そうそう忘れられない。しかも、たいがいタイムセールス品を求めるため戦場へ赴くといっても過言ではないのだ。

故に、買出しの日は朝から気を引き締めてかからなければないらない。



また、食事当番も同様である。買出しした者と食事を作るものが違うため何を作るかは作る直前まで決められないのだ。極稀ではあるが、携帯のメールで何を作りたいか、などの要望を聞いてくる。しかし、常はそんな暇がない。

学校では全くの他人、むしろ険悪な関係で通しているのだ。いつ露見するか分からない。

まあ、このスリルが楽しくて、それを見越した上でこの悪戯を決行したのだが。



たまに。後悔する時だってある。







鞄を持ったままリビングにある当番表を覗き込む。

今日の自分の当番は、と見てみると。



「・・・・・・・風呂掃除、か。早く済ませないと」



この家の風呂はそれなりの大きさを保有している。しかも、住んでいるメンバーのほとんどが風呂好きということも起因して、皆1回にはいる時間が長い。短くて1時間、長くて3時間弱。早めに沸かさなければ最後の1人が入るのが午前様を回ってしまうのだ。

再び廊下に戻り、階段を上って上の階にある自室へと入った。

そして、すぐ傍のクローゼットを開け手近な服を着る。だぼだぼのトレーナーと、ツーラインのズボン。1番動きやすく、ラフな格好だ。

階下に降りると、玄関の扉が開いた。どうやら今帰宅したらしい。



「お帰り」

「ただいま。早かったのね、カズイ」

「うん。ミリィも、ね」



帰宅したミリアリアは、カズイの言葉に苦笑を浮かべた。おそらく学校で放課後の予定を友人と共に立てている姿を見られたからだ。



「最初から行くつもりなかったのよ、今日は」

「何で?」

「今日、あたしが食事当番」

「・・・・・・・・・・納得」



4年間もこんな生活をしているだけあり、殆どのメンバーの食事の腕は向上されている。その中でも顕著なのが女性陣だ。1番は今日の買出し当番の少女。2番目は、学校で1人悪意を一身に浴びる少女。そして3番目がこのミリアリアだった。

逆に、何とか食べられるようになった、という腕をしているのはミリアリアの彼氏と、2番目に向上が顕著な少女の彼氏だ。前者は予想の範疇だったが、後者は意外だった。なまじ他の事が器用にこなせるからかもしれない。



「あのこ何買ってくるかしらね」

「さー・・・・・でも、大量に買って持てられない、という状況だけは避けたいな」

「可能性大ね、それ。・・・・・・・・ま、そうなったらあいつが動くでしょ」

「そうそう。帽子目深に被って、一応変装してね」



顔を見合わせ笑うと、カズイは浴室へ、ミリアリアは自室へと向かった。




《続く》



















secret school life 7


その時、サイは非常に困っていた。これまでにないくらい、困っていた。

目の前にいるのは、頬を染めて俯く、そこそこ可愛いと評判の少女。気立てもよく、穏やかで、守ってやりたくなるような、小動物をおもわせる、サイにとってはただの一クラスメイトだった。

それなのに。

それは今、まだ大勢クラスメイトが残る教室で脆くも崩れ去ってしまった。









「・・・・・・・・ごめん、今なんて」

「だ、だから・・・・その。・・・・・私、あなたが」



嗚呼、都会に来て、この学校に通い始めて早4年。よもや自分がこのような、告白を受ける立場になろうとは。

たどたどしくではあるが、それでも言葉を紡ごうとする彼女。そして突然の告白劇に呆然としているクラスメイトの視線。



「・・・・・・・そ、そう」

「・・・・・・・うん」



って、違う。ここは、如何にかして切り抜かねばならないのだ。

そう、如何にかして穏便に事を運ばなくてはならない。彼女を振る為に。

もったいない、というのは確かだ。しかし、自分には、最愛の人がいる。我が侭で、気が強くて、たまにどうして彼女を好きになったのかと自問する時だってある。けれど、自分にしか見せない弱さや脆さはどうしても守らなくてはと思わせる。

そして、満面の笑み。家族のような親友達に見せるものでも、学校で見せるものでもない、自分にだけ見せてくれるその笑み。



「えと、その・・・・・気持ちは嬉しいんだけど」

「え・・・」

「ごめん。俺、好きな人、いるんだ」



既に付き合っているなんて。言わない。言ったら最後、何が何でも聞き出してきそうな予感があった。それは駄目だ。



「ちょっ、アーガイル君!酷いじゃない!」

「へ?」

「こんな大勢の前で告白したのを振るなんて、信じられない!」



信じられないのは此方だ、と言い返さなかった自分を褒めたい。振られる、という考えはなかったのだろうか。それ以前に告白するならばもっと人気のないところでして欲しかった。



「そうよ!ジェシカが可哀相!」

「そうよそうよ!」



我に返った女子達からの非難。俺にどうしろと?好きでもない、好意を持っていない相手と付き合えと?

意中の相手がいるというのに。それこそ相手に失礼だろう。

しかし、そんな理屈が通るような雰囲気ではなかった。告白してきたジェシカは涙を瞳に溜め、縋るように自分を見つめる。その彼女の肩に手を置き、支えるようにして傍に立つ女子はサイを睨んでいた。

縋りたいのはこっちの方だ。



「サイ、勇気振り絞って言ってくれたんだからさ、報いてやれよ」

「そうだぜ。あいつ4年前からずっとお前一筋だったんだぜ。それにお前だって」

「そうそう。てっきり俺、サイはジェシカのことが好きだって思ってた」



男子までジェシカについている。まるで、最初から計画していたかのようだ。つい先日まで自分たちもジェシカは可愛い、恋人になりたいと雑談していたというのに。

一体なんなんだ。これでは付き合えと脅されているも同然ではないか。いや、これは完璧に脅しだ。目が、言っている。断ったら許さないと。

断ったらきっと、標的にされるのだろう。虐めという名の暴力の。

都会に来て、こういう面しか見ていない。希望と期待とで訪れたこの地は、故郷の温もりをむしょうに思い出させる。

だー、もう何でこんな時に限ってあいつ、カズイは早々に帰ってしまたのだろうか。

いや、単にこの計画を知らなかったからだろう。よく見れば、残っているものは自分と特に交友の深いものたちばかり。何てことだ。



「サイ、黙ってないで何とか言ったらどうなんだよ」

「そうよ、アーガイル!」



これぞまさに絶体絶命、四面楚歌。天の助けはない。

そう悲観していると、けたたましい音がなった。教室中に響いた。



「うわっ!?」

「ちょ、誰の携帯!?」



そのメロディーは聞き覚えのあるもので。急ぎポケットから取り出すと、ディスプレイに名前が表示されていた。

“フーちゃん”と。




《続く》



















secret school life 8


“フーちゃん”それは、一応暗号だ。携帯のアドレス帳を見られたときに、その人物が誰なのか分からないようにする為に。

だから、カズイは“カーくん”、ミリアリアは“ミーちゃん”だ。

一応断っておくが、こんな愛称で呼んだ事は過去1度としてない。物心ついたときからカズイはカズイであったし、ミリアリアはミリィだった。

こちらに来て、悪戯をしようと話し合った結果、この暗号が可決されたのだ。



サイは、そのまま誰に断るでもなく通話ボタンを押した。その行動に、クラスメイトの不満そうな視線がサイへと向けられる。

電話の邪魔をする、と言う礼儀知らずではないので教室は静かになった。



「もしもし」

『サイ?私』

「分かってる。どうかしたのか?」

『どうかしたのかは、サイのほうでしょ。さっき通りかかったら大変そうだったので、電話してみました』

「そっか、ありがとな。・・・・・・・・・・で、本当の用件は何?」

『あ、やっぱり分かる?』

「何年付き合ってると思ってんだ?それくらい分からないわけないだろう」

『そっか。今日ね、久し振りに小父様一緒にご飯食べられるんですって。キラが買出しで、ミリィが当番だから今日は美味しいわよ』

「小父さんが・・・・。それって何時くらい?」

『そこまでは分からない。でも、あの人のことだから早そう』

「そうだな。きちんと挨拶したいし・・・・・・すぐ帰るよ」

『そうしてちょうだい。・・・・・・・サイ、浮気は許さないから!』

「分かってるって。俺には君だけだよ」

『それならいいわ。じゃー早く帰ってきてね』

「ああ、また後で」



小父さん、とは、現在住んでいる家の持ち主で、自分たちを住まわせてくれている人だ。政界の偉い人物で、家は広い。何部屋もある。

普段、テレビのブラウン管越しに見る顔は厳しいもので、厳格な人物だと感じさせる。しかし、自分たちが知っているその人は、穏やかな笑みを浮かべる、親しみやすい人物だった。そして、自分たちを可愛がってくれる。まるで本当の子供のように。中でも実子と、その恋人は眼に入れても痛くない、といわんばかりの溺愛振りだ。

携帯をポケットにしまうと、そこには困惑したクラスメイトがいた。

今の会話で、ある程度のことは悟ったらしい。



「サイ、お前・・・」

「ああ。さっき言った好きな人って、俺の恋人」

「アーガイル君、付き合ってた人いたの!?」

「そう。何年もかけて口説いた、昔から1番大切な女の子がいる」



だから、君の気持ちにこたえることは出来ない。







ジェシカの瞳に溜まっていた涙は、とうとう溢れ、頬を伝った。



「そんなの、嫌!私のほうがあなたを思ってる!」

「俺が彼女でないと駄目なんだ。彼女以外、そんな対象で見られない」

「・・・・・・・・いやぁ・・・・」



泣き崩れるジェシカ。周りの女子はその彼女を慰める。

先ほどまで非難ごうごうだったものたちも、流石に彼女がいたとなれば話は別らしい。



「それじゃ、俺急ぐから」

「あ、ああ」

「また明日な」



何事もなかったようにサイは去ろうとした。

そう、計画を立て、サイが断れない状況を作り出し、半ば脅すように付き合えと言ったクラスメイトたちを、許すとでも言うように。



「・・・・ごめん、ありがとな!」

「何が?」

「こっちのことだ!また明日な、サイ!」



今度こそ、サイは教室を後にしようとした。しかし、それを阻む者がいた。ジェシカだ。



「・・・・教えて。あなたの恋人」

「何故?」

「教えてよ!私の、知っている人?」

「・・・・・・・・・知っていると言えば知っているし知らないといえば知らない」

「・・・・・何よ、それ」

「君に教える義理はないよ。それじゃーまた明日な」



立ち尽くすジェシカを振り返ることもせず、サイは足早に去って行った。




《続く》



















secret school life 9


何とかタイムセールス品は買えた。今日は普段のおば様方が来るよりも早く到着したため大収穫だった。

が、しかし。問題が発生した。

調子に乗りすぎて、荷物が自分の持てる量以上になってしまったのだ。

これを持って家まで帰るのは、難しい。大きい袋が3つ、中くらいの袋が4つ。1.5リットルのペットボトルが数本入っている上に、米まである。いつものことながら、自分を褒めたい。どう考えたって持って帰れる量ではないのに、買ってしまう自分に。



「・・・・やっぱ助けを求めるか」



学校からも程近いこの場所で、助けを求めるのは本当は危険なのだが、背に腹は変えられない。

思いため息をつきながらキラが携帯を取り出したとき、キラの背後に人が立った。

思わずばっと振り返ると、そこには同じ学校の制服を着た少年が立っていた。学科が違うらしく、ワッペンの形が違う。SEED科は天使の羽1枚の形をしている。しかし、その少年のワッペンはその羽が2枚。

今期から開設された、SEED科の後輩に当たる、S・DESTINY科のものだった。



「久し振り、キラねぇ」



親しげに笑いかけるその少年に、キラは思わず首をかしげた。学校内で、ここまで親しいものが、しかも違う学科のものにいた記憶はない。真っ赤な瞳と、漆黒の黒髪。無邪気な笑顔は幼さを残している。

はて、この取り合わせはどこかで見たことがある。

いつまでも凝視し続けるキラを不審に思ったのか、それとも呆れたのか、少年の顔が渋くなる。



「まさか、俺のこと忘れた?」

「えっと・・・・・?」

「うっわー。最悪。アスにぃはすぐ気付いたのに!」

「へ?」

「・・・・・・・・・・・・・シンだよ。シン・アスカ。これでも思い出せない?キラねぇ」



シン・アスカ。

その名前の知り合いは1人しかいない。そう、ただ1人しか。

そうだそうだ、真っ赤な瞳と漆黒の髪。この取り合わせはシンのものだ。



「って・・・・・えぇええええ!?」

「キラねぇ驚きすぎ」

「だ、だだだって、なんでここにいるの?」



故郷にいるはずの少年はきょとんと首をかしげた。無意識の行動なのだろうが、可愛い。可愛いったら可愛い。

シン・アスカ。

それは、故郷のコペルニクスでの弟分だ。あるときひょっこり近所に越してきて、シンの妹マユと共に皆で可愛がった。

同年代の幼馴染集団にとってシンとマユは初めての年下で、兄弟姉妹のいない自分たちにとって本当の弟妹のような存在だった。

基本的にコペルニクスの住民は仲がいい。いざこざは1年に1回あればいいほうなほどだ。

しかし、子供は違う。些事たることで喧嘩し、しかしすぐ和解する。そんな中で、シンは1ヶ月に1回は喧嘩沙汰を引き起こしていた。

その原因は。彼が目の中に入れても痛くないほど溺愛し、守っている最愛の妹、マユだった。

そのシンが。マユを置いてこの都会、ヘリオポリスに来ているなんて信じられない。信じられるわけがなかった。



「アスにぃと同じこと聞くんだね」

「いや、だってシンがだよ!あの、マユ一筋のシンがここにいるなんて・・・・」

「・・・・・・・・・・・そろそろマユ離れしなくちゃいけないわねって・・・・・・・母さんが・・・・・・・」



どよーんと、シンのまとう空気が重く、暗くなった。どうやら不本意ながらもここにいるらしい。

ヘリオポリスが選ばれた理由は、勿論自分たちがここにいるからだろう。



「住んでる所は?」

「寮。同室は何かと噂のあるレイ・ザ・バレル。今のところ衝突はしてません」

「へー・・・・・あれ?じゃあ何で今ここに?」

「ちょっと事情が聞きたくて」



何が、とは言わない。けれどキラには分かった。どうして、自分たちの関係が表立ってないのか、ということだろう。

きっと、シンもうすうすその答えが分かっているだろうが。



「教えてあげる代わりに手伝ってくれる?」

「何を?」

「これを家まで運ぶこと」



シンが荷物に視線を向け、固まる気配がした。それもそうだろう。誰だって固まるはずだ、こんな途方もない量。



「キ、キラねぇ・・・・本気?」

「本気。さー、行くわよ!」



がっくり肩を落としたシンに拒否権など存在しなかった。




《続く》



















secret school life 10


カタカタと。キーボードを打つ音だけがいやに響いた。

室内には生徒会メンバーのアスランをはじめとする、ニコル、イザーク、ディアッカの計4人しかいない。

他のメンバーは既に帰路に着いたのだ。

時間はもう、下校時刻1時間前。作業を始めたのが今から1時間前。ここにいないメンバーが帰路に着いたのが今から30分前。

それなりに作業は進んだ。後は、今が画面に映っているデータをまとめてディスクに保存すれば終わりだった。



「・・・・・・・アスラン」

「何だ、ニコル?」

「・・・・・・・どうしてアルスターさんとお付き合いをなさってるんですか?」

「またか」



フレイ・アルスター。校内一の悪評を持つその彼女と付き合っている、“振り”をし始めたその日から、ニコルはほぼ毎日同じ問いかけをする。

ただ、自分たちの本当の関係が知られないためのカモフラージュなのだが、それを言えるわけもなく、いつもアスランは適当なことを言って曖昧にしていた。



これは、4年前から始まった、大きな悪戯なのだ。知っているのは校長、理事長のみ。彼らには念入りに口止めをしている。

些細なミスが命取りとなるこの大きな悪戯は、卒業まで続ける予定だ。

卒業式のその日に、ネタ晴らしをする心積もりなのだ。真実を知った皆がどんな顔をするのか、今から楽しみでしかたがない。

特に、アスランの本当の恋人であるキラに恋慕するイザーク、ニコル、ディアッカの反応を、アスランは今から楽しみにしていた。



「今日こそはっきり教えてください」

「フレイと付き合ってる理由を?」

「そうです」

「そんなの、1つしかないじゃないか。彼女のことが好きだからだよ」



途端ニコルが言葉に詰まる。ニコルはアスランに尊敬に似た感情を抱いており、また、フレイには良い感情を持っていない。だから、どうしても認められないのだ。



「嘘だな」

「イザーク?」

「貴様は嘘をついている。アスラン、お前のアルスターを見る目は愛しい者を見る目ではない」

「・・・・・・じゃあ、どんな目だって言うんだ?」

「・・・・・・・家族を見るような、目だな」

「・・・・・・へー」



内心、驚いた。イザークの観察眼が見事な事に。

しかし、ここで露見してはいけない。

アスランはその一心で、イザークたちを誤魔化そうとそのすべを模索した。



「まだ誤魔化そうっていうのかよ、総長さんは」

「ディアッカ」

「本当は、同情で付き合ってんだろう?」



そうでなければお前とアルスターが付き合うはずがない。



そこまで断定されるとアスランに怒りが湧いてきた。

たとえ最愛の人物ではなくても、フレイは大切な家族の一員だ。本当の彼女を見たこともない彼らに、彼女の悪口を言われたくはなかった。

だが、ここまで見抜かれていて、どう誤魔化せばいいのだろうか。

策はないのだろうか。



その刹那、後方の扉が開き、噂のフレイが現れた。



「フレイ・・・?」

「お見事ね、アスラン。まるっきりばれてるじゃない」

「・・・・・・・申し訳ありません」

「ったく、本当にあんたはあの子一筋ね」

「褒め言葉として受け取っておくよ」



笑うと、フレイは一気に脱力した。

突然のフレイの登場に、言葉を失っていた3人だったが、我に返るなりフレイを睨みつける。

フレイはその視線を一笑し、アスランに言った。



「誰にも口外しないって条件で、教えてあげたら?あたしとあんたが付き合っている理由」

「え?」

「あんた達は知りたくない?誰にも言わないって約束すれば教えてあげるわよ」

「・・・・・・・・・・・・本当に?」

「ええ」

「フレイ!」

「いいからあたしに任せてよ、アスラン」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かった」



フレイはもう一度問うように3人を見つめた。イザークもニコルもディアッカも、口外しなければ知ることが出来るその情報に、釘付けだった。



「絶対に口外しません。だから・・・・・」

「2人も、かしら?」

「・・・・ああ」

「同じく」

「そう。じゃー教えてあげる」



フレイはそう言って一歩一歩3人に近付いた。比例して3人は一歩一歩後退していく。



「私たち、ただの虫除けで付き合ってるの。正確には、私がアスランの虫除け、アスランが私をこれ以上の被害から守るため」

「は?」

「アスランって、ここだけの話結婚を決めた相手がいるのよ、この年で。でも、ちょっとした事情でその人の事表沙汰に出来ないの。それで、フリーって事にしてたらちょっと思い込みの激しいお馬鹿さんが1名いてね。それの牽制を兼ねてあたしが恋人の座に座ってるの」

「何でキサマが?」

「私とアスラン、一応顔見知りだったのよ。小さな頃から、政界のパーティーで」



そういわれて初めて思い出した。

フレイの父親が、アスランの父親と同じ政界に関わる仕事をしていることを。



「ここで再会して、困っているようだったから契約を持ちかけたの。私を守る代わりに、そいつの牽制になるって」

「じゃー、2人は」

「ただのお友達」



あっさりと言い切った。アスランも同意するかのように笑っている。

普段見ないフレイの姿は、とても好意的に受け止められた。何故だか、分からないけれど。



「そうそう、私アスラン迎えに来たんだわ。今日、小父様帰って来れるんですって」

「・・・・・・・・・・・・・・・へえ・・・」

「嫌な顔しちゃ駄目よ。小父様アスランのこと溺愛してるんだから」

「・・・・・・顔と中身のギャップがなー」

「あれはひたすら慣れることね。所詮あんたも同じ血が流れてるんだし」

「傷付くこと言わないでくれ」



本当に落ち込むアスラン。父親のことは好きだし、尊敬している。しかし、それは仕事をしている時の彼に対してだ。プライベートの彼には、目を向けられない。厳格な父親は、ある時から脆くも崩れ去ってしまったのだ。



「そういうわけだから、これ持って帰るわね。後、誰にも言わないでよ?」

「これ言うな」

「あんたはこれで十分よ。で、どうなの?」

「分かっている!」

「約束だし、な」

「絶対に他言しません」

「信頼するわ」

「おいっ、引っ張るな!・・・・また明日な」



引っ張られるようにしてアスランは部屋を後にした。

残された3人は立ち尽くし、大きいような、小さいような収穫を胸の中で反芻していた。

そして、フレイが言った“お馬鹿さん”が誰なのか、気になりだした。




《続く》