secret school life 11


「重たい」

「主婦は大変なんだよ」



住宅街を、キラとシンは両手を袋一杯購入した物が詰めてあるスーパーの袋何袋かで塞がれ、とぼとぼと平生よりも遅い速度で帰路についていた。数メートル進むたびに不満が口から飛び出すシンを、キラは見事というべき手際の良さであしらっていく。いや、むしろ相手にしていないと言った方がしっくり来るかもしれない。



「・・・・・・・絶対キラねぇが、後先考えずになんでもほいほい買うから悪い」

「何で買い物現場見てないのに分かるんだよ」

「アスにぃたちに比べたら短いけど、付き合いは長いから」



キラねぇの行動パターンはある程度予測できるに決まっている。そういわんばかりの笑みを浮かべるシン。それを察してか、キラは言葉につまり口を尖らせた。返す言葉もない。よくよく考えてみれば付き合いの長い、現在共同生活をしているメンバーは皆自分の行動パターンを難なく読むことが出来るように感じられる。

それだけ自分は単純な性格だ、と言外に言われているようなそれに初めて気付いたキラは、鈍器で頭を殴られたような鈍い衝撃に見舞われた。



「キラねぇ?」

「・・・・・・・・・・シン。僕って、そんなに分かりやすい?」

「え゛・・・・・」



キラから飛び出した言葉は底冷えするような陰湿なものを含んでいる。しかも、キラが断崖絶壁の縁に立たされているような印象さえも植え付けてきた。下手に答えることが出来ない。返答次第によってキラの気分が上にも下にも変化するだろうが、万一下に変化したら自分の身に危険が迫る。

特に濃紺色の髪の、キラしか目に入っていないのではないかと思うくらいキラ馬鹿の某幼馴染とか。



「(じー)・・・・・・・・」

「うぐっ・・・・・・・・」



痛い。突き刺さるように見つめてくるキラの視線が。そして、不安げに揺らぐ瞳がまるでキラを虐めているかのような錯覚を与えてくる。だが、キラの望む返答が出来る比率は2分の1。そして、それはシン自身の安全の比率でもあるので、思い切った勝負に出ることなど出来なかった。

数十秒間それを続けていたが、流石に両手一杯に下げた買い物袋の重さは半端ではないもので、その場に立ち止まる事は肩や手の負担を更に延ばすことでもあった。

ので、2人はどちらからともなく、再び帰路へとつくのであった。



暫く黙々と歩いていると、前方に同じ制服を身にまとう学生が近付くのが分かった。

自分の知名度を知らないキラは気にも留めなかったのだが、ある程度キラの知名度を知り、その結果自分と一緒に居るところを見られた時の自身に降りかかる火の粉のことを想定できたシンはざっと顔を青褪めた。

まだまだ入学したてなのだ。母親から厳命されたからということも一因だが、ここでの生活において友人を失うのは痛手だった。

シンは、自身が不器用で、友達作りが非常に、信じられないくらい下手だということをきちんと自覚している。だからこそ、要らぬ噂を立て友人を失う、という形にはなりたくなかった。例え、些事たる事で崩れる友人関係でも入学したての今は崩れて欲しくなかったのである。



「キラねぇ・・・・・ちょっと」

「へ?・・・あ、シン!?」



荷物で塞がっているのにも拘らず、シンはキラの腕を強引に引っ張ると電柱の影にキラを押しやり、そして自分を盾代わりにしてキラの姿を見えないようにした。

シンの行動の理由がよく分からないキラは、訝しそうな表情を見せはするものの、別段抗おうとはしなかった。その理由がないからだ。そして、シンがどこか焦った様に見受けられたからだ。

程なくしてシンたちの傍を同じ学園の生徒が通り過ぎていく。流し目でその姿を追いながら、シンの心臓は早鐘のように鳴った。

対して、シンが壁となり何も状況がつかめないキラは、耳に届く声で、通り過ぎる人物達の正体を知り、シンの意図とは違ったものだが、シンに感謝した。

通り過ぎていく生徒たちは、キラの級友だ。特に親しく付き合っているものたちだ。



生徒たちが姿さえ目で確認できなくなり、どっと疲れを感じつつ、電柱からシンとキラは離れた。



「シン、ありがとう」

「え・・・・・?キラねぇ?」

「さっき通り過ぎてった人達、僕のクラスメイト」

「えぇっ!?本当?」

「うん。あの声は、確かにイザークたちのものだったよ」

「・・・・・・・・・・・・・イザークって、生徒会所属してる・・・・・?」

「そうだけど、知ってるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・有名だから」



知ってるも何もあったものではない。キラという代名詞に必ずついて回る3人の人物。イザーク、という人物はその3人の内の1人だ。他にも同じく生徒会所属の人間が2人いるが、そこは敢えて割愛しよう。

イザーク等3人を生徒たちは総称して3騎士と呼ぶ。姫であるキラを、野蛮な男子生徒から守っているからだ。しいて言うならば、キラの下駄箱に投函されているラブレターなるものを秘密裏に処理したり、キラにちょっかいを出そうとする他の男子生徒に睨みを利かしたり。まるで恋人を守るかのようにキラに群がる害虫、男どもを蹴散らしていた。

本人達は彼らの総称を知っているようだが何も言わないらしい。むしろ気に入っているような節があると噂されている。勿論キラはその事実を知らない。自身がアイドルのように思われていることすら知らないのだ。



「ふーん・・・・・。生徒会だからかな?」

「ははは、そうかもね」



あなたに原因があるんですよ、などとは口が避けても言えなかった。お陰で、シンの口元は非常に引きつっている。

昔から変わらないキラの、自分に関することでの鈍感さは、成長した今も劣らず、むしろ磨かれているような気がしてならなかった。



そして2人は再び帰路に着いた。

そろそろ腕の感覚がなくなる様な予感がする。急がなければ。




《続く》



















secret school life 12


「お帰り〜」



ドアの閉まる音で気付いたのか、パタパタと足音を立ててトールが玄関先まで出迎えに来た。早々に帰宅しているらしく、トールが好むゆったりとした私服を身に纏っていた。浮べる表情は長い付き合いから容易に分かる位機嫌がいい。



「・・・・・ただいま」

「どうかしたの、トール?」



これ程機嫌がいい彼は稀なことだ。ついつい訝しそうに眉を顰めるアスランとフレイは、ドアに手を掛けたまま立ち尽くしていた。しかし、不気味そうな顔の2人の幼馴染など気にも留めないトールはそのまま自室へと引き返していった。

その彼の背を見送りながら、アスランとフレイは顔を見合わせた。



「何なの、あれ?」

「さあ?」





「あ、お帰り」

「ただいま、ミリィ。今日もご苦労様でした」

「うん、フレイもご苦労様」



リビングのソファーで寛ぎ、雑誌を片手に煎餅を口にするミリアリアはそのままリビングに足を運んだアスランとフレイを笑顔で迎えた。フレイはソファーの裏手に回るとミリアリアに笑顔を浮べる。そして、2人は暫く見つめあい、口元に笑みを浮かべると、息のあった動作で手を重ねた。

大きな悪戯を決行する上で、学校で自分たちは犬猿の仲を演じている。それを互いに労うのは、彼女達の日課だった。

それを眺め、アスランは自然な動作で部屋中を見渡し、首を捻った。



「・・・・・・キラは?」

「ったく、第一声がそれ?まーアスランらしいけど」

「本当ね」

「いいだろっ!で、どこだ?」

「まだ買出しから帰ってきてないの。まーた、買いすぎて呆然としてんじゃないかしら?」



何でもないことのようにのたまうミリアリアの言葉を聞くや否や、アスランはリビングに鞄を放り出し、脱兎の如くリビングを後にした。そして、すぐに扉が開き、閉まる音がした。

呆然とそれを見届け、フレイとミリアリアは同時にため息をついた。

キラのこととなると、アスランはいつもこうだ。学校では冷静沈着で何事に於いても淡々とこなす鉄面皮の正体が、唯1人の大切な少女のこととなると何も周りが見えなくなる不器用な男だとは誰も予想できないだろう。アスランにある程度の理想を抱いている者たちが本来の姿を見たときの反応は想像するだけで笑いが抑えられない。

いずれ真実を明かすとき、その反応も楽しみでキラとアスランを除く全員は悪戯に勤しんでいる節もあるほどだった。



「ねー、今凄い音したけど、誰か出てったの?」

「あらカズイ。ご苦労様」

「言わずもがな、キラを心配した馬鹿が飛び出ていった音よ」

「・・・・・・・・・・・・・アスラン、制服のままじゃ?」

「相手はキラ一筋でキラ馬鹿の異名を思いのままにするあのアスランよ?」

「まー、あれでも飛び切り優秀だからへまはしないでしょ」



酷い貶し方を受けていたアスランだったが、カズイは何も言わず、むしろ納得しリビングを後にした。まだ風呂掃除が終わっていないのだ。



暫くして、ドアの閉まる音がした。誰かが帰ってきたらしい。

制服から私服へと着替え、ソファーで寛ぎながらテレビのニュース画面をなんともなしに見ていたフレイは、徐に立ち上がり玄関へと向かった。

フレイの予想通り、玄関には靴を脱ぎスリッパに履き替えるサイの姿があった。



「お帰りなさい」

「ただいま、フレイ」



フレイは手を差し出し、サイから彼の鞄を受け取ると無言でサイの私室へと向かった。サイもそのままフレイについていく。

2回への階段を上り、1つ目の角を曲がると、ちょうど自室から出てきたトールと鉢合わせした。



「あ、サイ。お帰り」

「ただいま、トール」

「相変わらず仲いいな」

「羨ましいだろう?」

「別に〜」

「仲いいのは、あたしたちだけじゃなくて、あんた達もでしょう?それ以前に家には究極の馬鹿っプルが居るでしょうが!」

「あはは、あいつらには勝てない」



既に慣れた光景とはいえ、休日のたびに繰り広げられあの甘ったるい2人だけの世界は、見ているだけで胸焼けが置きそうなくらいだった。しかも、彼らを見てうんざりしているはずのフレイやミリアリアは対抗心を燃やして甘えてくる。嬉しくないというわけではないが、理由を考えると素直に喜べない。

それに、ただ1人、今も独り身の男が1名居る。何を隠そうカズイのことであるが、彼の事を考えると忍びないのだ。アスランはキラと、トールはミリアリアと、サイはフレイとそれぞれの相手といちゃつき始めたら、カズイだけ相手がおらず、構う人もいない。



「そういえば、アスランとキラは?」

「キラはまだ買いだし行ったまま。アスランはそれ聞いてすかさずお迎えに行ったわよ。制服のまま」

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」



思わず脱力仕掛けた。アスランだ。キラのこととなると人が180度変わってしまうアスランなのだから、これ位は当然かもしれない。だが、だからといって全く予想を裏切らない行動をされても、此方としてもむなしいものがある。

それがトールとサイの偽らざる心境だった。



「さー、サイは早く着替えちゃいなさい。トールはミリィのとこ行きなさい」

「あ、うん」

「へーへー」

「今日は小父さま帰って来られるって言ってたし」

「そういえば・・・・・・・そうだな」



トールは記憶の糸を手繰り寄せ、リビングにあるボードにこの家の持ち主であり、アスランの父親でもあるパトリックの帰宅の旨が書かれていた事を思い出した。帰ってきた時にはそれがあったという事は昼間書き足されたのかもしれない。



「もうすぐ連休だし、その話も兼ねてるかもな」

「あ、ああ・・・・・」

「・・・・・・例のことについても何か進展があったかもしれない。きちんと聞いておかなくちゃ」



フレイの言葉にサイもトールも深刻な顔をして頷いた。

―――――自分たちがここに来た理由の1つでもある、とても大切なこと。



それからトールは階下へ向かい、サイとフレイは連れ立ってサイの部屋へと向かった。




《続く》



















secret school life 13


キラの不在を知り、文字通り家を飛び出したアスランは、キラが、も問い自分たちが学校帰りに度々訪れるスーパーまでの道程を走っていた。走りながら周囲に意識を向けキラと、そして同じ学園の生徒が居ないか注意するのも怠っていない。

アスランにとって最優先すべきはキラである。だが、家族同然の幼馴染たちと実行中の悪戯もまた、途中で露見するような事はあってはならない。だからこそアスランはいつでも仮面を、学校内で生徒会総長の肩書きを持つアスラン・ザラになれるよう準備をし、だが素のアスラン・ザラでキラを捜していた。



「・・・・・・・・・この道以外を使うはずはないんだが・・・・・」



キラの事に関しては、彼女自身よりも長けているということを自他共に認めているアスランは、なかなかキラの姿が見つからない事に焦燥感を感じていた。よもや今日に限って違うルートで帰宅しているのかもしれない。刹那に浮かんだ1つの考えに、唇を噛み締める。しかし、あまりにも買い込んだ荷物が多すぎてなかなか足が進まないのかもしれないという考えも浮かんだ。

考えれば考えるほど色々な予感が頭を過ぎっては消えていく。深刻な色を浮かべたアスランは、一時的に、考え込むよう足を止めたが、またすぐ先を急いだ。

彼の勘が告げているのだ。キラはこの先に居ると。



自身の直感を信じ先を進むアスランは、程なくして前方から近付く2人の人影に気付いた。

辺りは沈み行く夕日に照らされ、何もかもが赤く染まっていた。光のさし加減のせいか、アスランが居る場所からは2人の人影の顔は見えず、ただ同じ学校の生徒だと、身に纏う制服しか見えず判断を下せなかった。

だが、近付くにつれて彼らの手に大きな袋がいくつもある事に気が付く。

まさか、と思い、凝視してみると、片方の、同じ学園の女子生徒の姿はキラと酷似しているような気がした。だが、間違えた時のことを考え、アスランは大きく息を吸い込み、意識を切り替えた。

学校内で振舞う、アスラン・ザラに。





「うわ〜早く帰らないと・・・・・空が真っ赤だよ」

「・・・・・・そうだね。ってか俺も早く外泊届けだすために電話借りたい」



足はひたすら動かしながら、キラとシンはキラの住む、みんなの待つ家へと急いでいた。ふと見た大きく広がる空は真っ赤に染まっている。とてもとても優しい色だ。

幼い頃、皆で学校裏手にある山で遊び、そこにあるとりわけ高い大木をよじ登ってよく沈み行く太陽を、平穏な町を、大きく広い世界を見ていた。夕日の優しい赤色に染まった空と、真っ青だった空の混じった部分のなんとも言えない美しさは、まぶたの裏にしかと焼きついている。



「・・・・・・・・・でも、ここは同じはずなのに違う」

「キラねぇ・・・・・」



とても、悲しげに瞳が揺れた。場所は違えど、見ている夕日は同じもの。たった数年で物の考え方、感じ方が変わるわけがない。

それなのに、キラの心は拭えない違和感と、故郷への思いに胸が痛んだ。

キラの、その先に続く言葉を、その思い出深い彼の地を知るシンは、複雑な表情でキラを見遣った。シンにもキラの言葉は理解できた。自身もなんとも言いがたい拭えぬ違和感を抱いているから。

かつてはこの地で、都会と呼ばれるこのヘリオポリスで暮らしていた時と今とではシンは比べ物にならないほど変わった。成長した。越した先で出会った兄や姉と慕う幼馴染に知らないことを学び、その地に未だ広がる大自然に尊いものを教わった。あの地で、シンは変わったのだ。都会に居ては一生変わりはしなかった。



「なあんてね。さーシン。家まであと少しだから頑張ろう!」

「え・・・あ、うん!」



打って変わって浮かんだ笑顔に肩透かしを食らうが、シンは同調するように元気よく頷いた。

キラには、笑顔が1番よく似合っていると思うから。



そのまま歩き続けると、前方から人影が近付いてきた。よくよく見ると身に纏うのは同じデザインの制服。それが意味する事は、同じ学校の生徒だということ。

またかよ、とげんなりするも、ここまで接近されてしまっては下手に隠れるのは疑念を抱かせる原因だ。しかも隠れる場所が無い。かといってこのまますれ違うと、明日、明後日には噂が尾ひれをつけ学園中を駆け巡り、自分は大衆の目に晒されるだろう。

一気にそこまで考えが及ぶと、シンの足はまるで石と化したかのように動かなくなった。背中から嫌な汗が滲み出て、伝う。

もう、終わりだ。俺の学校生活はお先真っ暗だ。そのままがくりと項垂れ、地べたに座り込みそうなった時。

シンが立ち止まった事に気が付かず数歩ほど先に居たキラが喜色に満ちた声をあげた。



「アスラン!」



控えめだが、心底嬉しそうにその名を口に出すと、キラは荷物の重たさなど感じないかのような軽い足取りで前方の人物――アスランの胸に飛び込んだ。



「うわっ・・・・ちょ、キラ!?」

「アスランだー!」

「遅いから心配で・・・・荷物貸して。重いだろ?」

「あ、ありがとう」



キラは荷物の半分をアスランに渡すと、はにかむような笑みを浮かべた。そんな彼女を、これまた愛しそうな瞳で見つめるアスランは額に唇を寄せ、極自然に帰宅を促すようキラの腰に手を回した。



「あ、アスランちょっと待って。シンが」

「シン?」



キラの視線の先を追いかけてみると、そこには呆け立ち尽くすシンの姿があった。目を瞬かせ、目の前で起こったことをどうにか齟齬しようとしているようだが。



「・・・・・・・シン、何をぼけっと突っ立てるんだ?」

「ぇ・・・・・あ、アスにぃ!?」

「ほら、その荷物の半分寄越せ。家は近いんだから急ぐぞ」



そう言って、半ば奪うようにシンが持つ荷物を半分ほど受け取ると、アスランはキラと並んで歩き始めた。

まだ良く起こった事が理解できないシンは目を瞬かせるが、だんだん距離が開く2人の背中に我に返ると、彼らを見失わないために走った。



学校で偶然出くわし、懐かしさのあまり声をかけたあのときのアスランと、今自分から荷物を奪うようにして持って行ったアスランは全然別人だった。前者は赤の他人のようで、校舎は間違いなく自分が慕ったアスランだ。

学校内で再会した時は、すっかり変わったアスランを悲しく思ったが、やはり本質は変わっていない。

そう思うとシンの心は嬉しさで一杯になり、そして早くその理由を聞きたいと思った。



「待ってよ、キラねぇ、アスにぃ!!」



追いかけるシンの顔には満面の笑みが浮かんでいた。




《続く》



















secret school life 14


「ただいまー!!」



元気良く扉を開けるキラの姿に、キラがいつになくはしゃいでいるという事が如実に現れていた。それを見て、アスランは苦笑を浮べるものの、自身もキラに同調してかはしゃいでいる事実に気付く。

久しぶりにシンという弟も同然の存在と一緒に過ごせるのだ。学校で会ったときは偽りの自分を演じていたのでまともに構うことが出来なかったが、今は違う。その時の罪滅ぼしも兼ねて嫌というほど構い倒してやろう。



「遅い!」

「うっわー・・・・何その荷物」



迎え出たのは勿論フレイとミリアリアだった。食事当番のミリアリアとしては一刻も早く調理に取り掛かりたいだろう。既に7時に近いのだ。外はまだまだ明るいけれども。



「ごっめーん。でもさ、吃驚する人連れてきたよ!」

「は?」

「連れてきたって・・・・・ちょっとアスラン、どういうこと!?説明しなさい!!」



玄関内の一歩後で荷物を持ったまま立つアスランに少女達の意識は移った。

彼女たちの視線を受けて、アスランは悪戯を実行する子供のような笑みを浮かべた。



「言い忘れてたんだけどさ、今日学校内でとある人物と出会ってね、これまた偶然キラもスーパーでその人と会ったから連れてきたらしいんだ」

「学校って・・・・・・何考えてんの!?」

「ただでさえ私とアンタの関係がカモフラージュだってあの3馬鹿に知られたって言うのに・・・・」



知られたというより教えたのほうが正しいんじゃないだろうか、内心フレイにつっこむも口に出したが最後どんな目に合わされているかは長年の経験でわかっている。アスランは何も言わずタイミングを見計らっていた。彼女達が最も驚いてくれるだろうタイミングを。

手で目の辺りを覆うようにしてフレイは思いため息をつく。ミリアリアはキラとアスランを交互に睨みつける。



そろそろかな。



アスランはキラに目配せした。それに対してキラは頷くと、脱力感にも見舞われている幼馴染に最大級の笑顔を向ける。



「まあまあ落ち着いて。2人が心配することなんて何にもないんだから」

「あのねー!!」

「アスラン」

「わかってる。・・・・・・・・・・・・ほら、来いよ」



アスランは左斜め一歩下がり、後方で待機させていたシンを呼びつけた。

戸惑いながらも玄関に近付くと、先ほどまでフレイたちに浮かんでいた焦りやら怒りやらが見事に消え、代わりに驚きが現れた。



「え・・・・・・・」

「・・・・・・・まさ、か・・・・・」

「えと・・・・・・久しぶり、フレイねぇ、ミリィねぇ」



はにかみながら頭をかくシンの頬はうっすら赤みが差していた。どうやら照れているらしい。



「「シン!!!」」

「はいっ!!」



見事に揃ったそれに、思わずといった感じでシンは答えた。そしてその直後。



「うわあっ」

「・・・・・・・久しぶり」

「ちょっと見ない間に大きくなったわね」



フレイに抱きつかれ、ミリアリアに頭を撫でられていた。

暫くは突然のことで何が何だかだったのだが、徐々に自身がおかれている状況にき、身を捩じらせる。しかしフレイはそれを許さず更に強く抱きしめた。



「ちょっ・・・・・フレイねぇ・・・・・」

「黙りなさい、シン。久しぶりの再会なんだから、いいじゃない」

「だ、だって、此処・・・玄関」



言われてフレイは思い出す。が、扉はアスラン辺りが閉めているだろうから問題ないだろう、と視線をめぐらすと。案の定アスランがしてやったり、といった感じの表情でキラの隣に立っていた。勿論扉は閉めてある。

なんだか癪だ。

その反動でフレイはますますシンを抱きしめる力を強くした。



「フレイねぇってば!!」

「男がごちゃごちゃ言わないの!」



そういう問題じゃない、とぼやくのが聞こえたが、一切合切無視だ。



「フレイはホント、シンのこと溺愛してるねぇ」

「手のかかる弟みたいって言ってたからな。マユとワンセットで特に構ってたから」

「そうそう!やんちゃで生意気なシンもどういうわけかフレイの前ではとっても素直だもんね」



微笑ましげに2人の再会を眺めていると、2階から駆け下りてくる音が響いた。ふと見てみると、先ほどまでシンの頭を撫でていたミリアリアの姿がない。おそらく2階にいた者たちを呼びに行ったのだろう。



「フレイッ!?」



飛び込むように現れたサイの姿は、平生の落ち着いた彼を見事に崩すものだった。声に悲しみと焦りが滲んでいる。

抱きしめあう姿を見た瞬間見開かれたサイの目は、この世の終わりが映ったらしく、今にも泣きそうだった。

だが、やはりそれもすぐに驚愕に変わる。勿論、嬉しい驚きだ。



「あ、サイにぃ助けて!」

「助けてとは聞き捨てならないわねぇ」

「じゃあ、もういい加減離れてよ!恥ずかしいだろ!!」

「・・・・・・・・シン?」



遅れるように現れたトールとカズイ、そしてミリアリアが見た光景は、フレイから逃げようとしているシンにフレイが羽交い絞めし、脱力したように壁にもたれかかり乾いた笑みを浮かべるサイ。そして2人の世界を作り上げてしまっているアスランとキラというなんとも理解しがたいものだった。




《続く》



















secret school life 15