隣を見れば、必ず横に彼はいました。 笑いかけると、彼も笑ってくれました。 いつも一緒にいて、離れることがあるなんて、夢にも思っていませんでした。 いなくなってから気付きました。 彼の大切さを・・・・自分の心を プロローグ 「また、またいつか、会えるよね?」 今にも泣きそうな声。 けれど必死に涙をこらえて、目の前にいる大切な彼は、笑っていた。 ―――――――自分に心配させまいと、それだけを思って。 「うん、絶対逢えるよ・・・・」 「・・・・・戦争・・・・・大きな、戦争・・・」 「きっと起きないよ。そこまで人間は馬鹿じゃない。だから、また会おう?」 「うん・・・・」 いくら自分が言ったって、彼から悲しみはとれない。 本当は、ずっと、いつまでも一緒にいたかった。傍にいたかった。 離れるなんて、子供の自分たちは、これっぽっちも思っていなくて。 ―――――――1人になんかしたくない。一緒にいたい。 だから、そんな思いが強く渦巻いていたから、自然と口から出た。 「キラも、いつかはプラントに来るんだろう?」 「・・・・・・うん、多分。でも、父さんと母さんのこともあるし・・・」 どうしてそこまで、と思う位優しいキラ。 だから、キラの両親が行ってもいいと、言ったとしても、キラは彼らと共に在ることを望むだろう。悲しいけれど。 だからこそ、自分はキラが好きなのだから。 「・・・アスラン?」 「キラ、これあげる」 「・・・・これって・・・」 自分が取り出したのは、緑色のロボット鳥。以前、キラが課題で作ってみたいと言っていたもの。 「首傾げて、鳴いて、肩に乗って・・・飛ぶよ」 「・・・・・いいの?」 「うん、キラに貰ってほしい」 そう微笑むと驚いた表情のままのキラは、おずおずと手を差し出してきた。 「トリィ」と鳴くそのロボット鳥は、ちょこんとキラの手に移って・・・彼はとても嬉しそうに微笑ってくれた。 「ありがとう、アスラン。絶対、絶対大切にする」 やっと心の底からの笑顔を見せてくれた。 この笑顔を見るのが、自分は大好きだった。 まるで、日向にいるような、悩みや疲れが吹っ飛ぶような、そんなキラの笑顔。 「ありがとう、貰ってくれて」 「そんな・・・お礼を言うのは僕のほうだよ・・・あ、せっかく貰ったんだし、名前付けなきゃね」 嬉々として、考え込み始めたキラを見ながら、時間がとまればいいと思った。そうすれば離れなくて済む、と。 ずっと一緒にいられる、と・・・。 「うーん、何がいいかな・・・。ピー、は変だし。グリー・・・って何かヤダ」 くるくると変わる表情をまるで保護者のような気分で見つめる。 ふと目が合うと、彼は満面の笑みで名前を呼ぶ。「アスラン」と・・・ 「アスランは何がいいと思う?」 無邪気な君。 優しい君。 本当に、全てが愛しい。 「っふ、何がいいだろうね」 「ちょっと、何で笑ってるの?」 「だってキラ、ネーミングセンスないんだもん・・・。あ〜、おかしい」 「アスラン〜〜〜〜(怒)」 「ハハハ・・・・でも、何がいいのかな」 「「トリィ?」」 訊ねるようにロボット鳥を見ると、それは可愛らしく小首を傾げるだけだった。 そのとき。 「そうだ、“トリィ”は?」 「“トリィ”?何でまた、そんな安直な・・・」 「うるさいなーー。だって、この子トリィ、って鳴くんだもん。それに、しっくりくるし。・・・・駄目?」 「いや、いいんじゃないかな、“トリィ”で」 「「トリィ〜〜♪」」 鳴きながら自分たちの周りを飛ぶトリィは、本物の鳥そのもので。 まるで、名前を貰ったのが嬉しくて、はしゃいでいるかのように感じられた。 楽しい、しかし最後の時間。 刻々と、針は時を刻み、終わりへと近づいていく。 「それじゃあ、また会おうね、キラ」 「うん、絶対に会おうね。そのときはトリィと3人で遊ぼう、アスラン」 「そうだね、遊ぼう」 交わしたのは、約束。純粋で誠実な、直向な想い。 桜の美しい花弁が舞い散る、あの木の下で―――――。 まだ知らない。 これから起こる悲しい運命を、戦いを、想いを。 心が引き裂かれそうなくらいの痛烈な痛みを。 まだ、知らない・・・・・ |