ある朝の出来事





整備班は朝が早い。

機体の整備は疎かに出来ないからだ。

機体は、パイロットの命綱も同然。

少しでもエラーや不備があれば、それはイコールでパイロットの死へと繋がる。

ヴィーノも例外なく朝早くからヨーランと共にインパルスの整備に精を出していた。



いきなり艦長からインカムで、とある任を命令されるまでは。











「って言うか、何で俺がこんなことを・・・・・」



ぶつぶつ文句を言いながら、ヴィーノは居住区を歩いていた。途中すれ違う同じ隊の者たちと軽く挨拶をしながら、流れに逆らうようにヴィーノは歩いていた。

ことの始まりはいきなりインカムに入った艦長の声である。

いきなりのことで驚いた。しかし彼女はそんな事お構いなしに用件だけ言って通信をきった。



用件、と言うのは、今向かっている部屋の人物を起こすこと。



本来ならば、同室のものが起こすらしい。と言うかそれが世の常だろう。

が、しかし。今日に限ってその彼は現在手を離せない状況にあるようで。

それで起こさなければならない人物と親しいヴィーノが選ばれたのだった。



ここで一つ疑問が過ぎる。

何故ヴィーノだったのか、と言うことだ。

ヴィーノ以外にも、彼と親しい人物は多くいる。はず。

その筆頭がヴィーノ自身である事は自負している。だが、ヴィーノ同様に親しい人物は、もう一人いるのだ。



同じく整備班のヨウランだ。



奴も彼と親しい。 しかも艦長に頼まれたときに、彼もそこにいた。

それなのに、それなのにも係わらず。

ヴィーノが選ばれたのだ。



「・・・・・・・・・・・シンの馬鹿野郎っ」



ヨーランの裏切り者っと、内心付け加えた。

声に出さなかったのは、一応八つ当たりだという自覚があるからだろう。













部屋番号を確かめる。あらかじめ艦橋の方で操作されている扉はロックなどかかっておらず簡単に開いた。

流石はエリート。

一般兵士の部屋よりも心なしか広いつくりのその部屋に、ヴィーノはきょろきょろと辺りを見渡しながら足を踏み入れた。

二つある机のうち片方は、きちんと整理されている。

もう片方は、書類と思しき紙や、筆記類が散乱していた。

どちらのがどの机を使っているか、一目瞭然である。



目的人物―――シンが使っているだろう机の奥に設置されているベッドを見ると、そこにはこんもりとした山が出来ていた。

上下にその山は揺れている。

今もまだ彼はそこで惰眠をむさぼっているのだろう。



「・・・・・・・・なんで今日に限って寝坊してるんだよ」



普段のシンならば、寝坊することなどまず無い。

むしろ、早起きの部類だろう。

偶に整備班と共に作業する時だってあるのだ。早朝に。



「ま、いいや。兎に角早く起こして作業に戻ろうっと」



すたすたとベッド際に近付き、シンの顔を覗き込んでみる。

完全に熟睡している。

これだけ近くに気配があると言うのに、全く気付こうとしないのだから。



「・・・・・・いいのか、エリート」



思わず漏れる言葉は、ヴィーノ以外の耳に入ることはない。

肩をすくめると、ヴィーノはシンの身体を軽く揺すった。

自分の任務はシン・アスカを起こすことだ。



ゆさゆさ、ゆさゆさ



揺するが起きる気配は一向になかった。

起きないシンに少しむっときたヴィーノは、先程よりも強く揺すった。



ゆさゆさ、ゆさゆさ、ゆさゆさ



それでもシンは起きない。

寝息を立てながら、未だ夢の世界に旅立ったままだ。



「・・・・・・・こうなったら」



だんだん意地になってきたヴィーノは、徐に立ち上がると、がばっとシンが被っていた毛布を取り払った。

現れたのは、制服の下に着用する薄手の半袖のシャツと膝上のズボン。

軍から配給されるそれを身に纏い、猫のように背中を丸め眠っているシン。

毛布を剥ぎ取られ、温もりを失ったことに対しての行動か、シンの身体は徐々に背を丸めていっている。



「シーン、シーーン、起きろって!!」

「・・・・・ん・・・・・ぅ」



身じろぎはするものの、覚醒は程遠い。果てしなく遠いシン。

若干声のボリュームをあげてもこうなのだから、シンを起こすためにはもっとボリュームを上げなければならない。

はあ、と大きくため息をつきヴィーノは身体を屈ませ、シンの耳元に顔を近づけた。

息を大きく吸いこみ。

シンの名前を叫ぼうとした瞬間。



「シっ・・・・うわぁ!?」



ヴィーノは伸びてきたシンの腕により、シンの体、つまりはシンが寝ているベッドへとダイブした。

一瞬何が起こったかさっぱり分からなかったヴィーノは、目を瞬く。

首もとに感じる腕の持ち主は、どう考えてもシンのものだ。

目の前にある胸板も、シン以外考えられない。



「・・・え・・・っと・・・・・・・・」

「・・・・まだ、寝る・・・・・」

「・・・・・・・・・・シン、起きてるの?」

「・・・・・・・・うっさい。まだ、寝る」



呂律が回っていないことはないのだが。

だからと言って平生の彼ではないことなど一目瞭然。

つまり、それが指し示す事は。



「寝ぼけてる・・・・・よな。これ。どう考えても」



うわーっ、初めて見たよ。シンが寝ぼけてる所!



なんて、関心している場合ではない。

しっかりと回された腕によって拘束されたヴィーノは、どうにか起き上がろうとするもののびくとも動けなかった。

整備班に配属されようとも、アカデミーを卒業している事には違いない。それなのに。

同じ男として、シンの腕から出られない事は、ヴィーノのプライドを少々傷つけた。



「シーーンーーーはぁーーなぁーーせぇーー」

「・・・・・・・・・・」

「って、逆だよ逆!!何で強くするんだよ!!」

「・・・・・ん・・・・・・」

「だあああ、シンの馬鹿ーー!!」



必死にもがいてみたものの、ことごとくそれは失敗に終わり、逆に腕の力は強くなるばかり。

しばらくした頃にはヴィーノはぐったりとした様子でされるがままの状態になっていた。

ぎゅうっと、まるで抱き枕のように抱きしめられたままのヴィーノの顔は疲労の色が色濃く映っている。



既にこの部屋を訪れてから十数分は経っている。



すみません、艦長。俺任務果たせそうにありません・・・・・・



哀愁を漂わせながら、目を閉じ心の中でタリアに謝罪する。

もうシンの腕から逃れようと言う気はさらさら湧かないヴィーノであった。



何もすることなくただ横になっているだけで時間は進んでいく。

人間誰しも横になっていれば必ず眠気は襲ってくる。

例外に漏れず、ヴィーノにも眠気は襲ってきた。

朝が早かったと言うこともあり、ヴィーノはその眠気に打ち勝つことが出来ず、そのままシン同様夢の世界へと旅立っていった。









起こして来い、とヴィーノに頼んでから既に一時間弱が経過しようとしていた。

幾ら待てども一向に現れないシン。そして戻ってこないヴィーノ。

何かあったのだろうかと。一時間待っても現れない二人を心配し、第二陣がシンとレイの部屋に派遣された。

メンバーは、言わずともがなレイである。

ヨウランも、と言うことだったのだが、生憎ヴィーノが戻ってこないお陰で彼の分まで仕事をやらされているらしい。

つまり手が空いていなかったのだ。



黙々と通路を抜け部屋に戻る。

シンと同室になって以来、休日の日にシンが寝坊していることはよく見かけていたが、勤務がある日に寝坊したのはこれが初めてだった。

未だロックされていないままの扉を開け、レイは中に入る。

この部屋はシンの部屋でもあり、自分の部屋でもあるのだ。気兼ねなどあるはずもなかった。



「シン、ヴィーノ。何か起こったの・・・・・・か・・・・・・」



それを視界に入れた瞬間、レイは固まった。

視線の先には、シンの使用しているベッド。

ベッドの傍には、シンが使っていた毛布が落ちている。

そして、ベッドの上には。



「・・・・・・・・・・」



話題の二人が仲良くすやすやと眠っていた。とても気持ち良さそうに。

これだけならばレイだって固まりはしなかっただろう。しかし、二人の体勢が問題なのだ。

絶対に手放さない、と言う雰囲気を漂わせるほどぎゅっとヴィーノを抱きしめて眠るシン。

その腕にされるがままになっており、その上自分もシンの服をつかんでいるヴィーノ。

幾らなんでも、年頃の男子のとる行動とは到底思えない。

いやしかし。ここは軍なのだから決してないわけでは・・・・・



エンドレス



ぐるぐる思考が乱れ、レイは混乱の頂点を極めんとしていた。

このときレイはひたすら願った。

誰でもいい、誰でもいいからこれを嘘だと言ってくれ、と。

固まったまま動こうとしてくれない足は便りにならない。

目を背けたくても、目蓋の裏に二人の姿はしっかりやきついている。



二人から視線も放せず、また動くことも出来なかったレイは。

その後第三陣であるヨウランが派遣されるまでぴくりとも動けずにいた。

当事者である二人は、すやすや夢の世界を満喫していた。









































おまけ。



「シンの馬鹿ーー!!」

「な、なんだよっ」

「お前のせいで、ヨウランに明日のあいつの仕事押し付けられたじゃないかー!!」

「何で俺の所為になるんだよ」

「どう考えてもお前だろ!!お前が寝坊しなければ、俺のこと抱き枕にしなければ!!」

「うっ・・・・・・(図星なので痛い)」

「反論でもあるの!?」

(ヴィーノの言葉と上目使いで睨まれた事により、言葉が上手く出てこないシン)

「ないでしょ!!ほら、シンの所為だ!!」

「なっ・・・・あそこで寝たのはヴィーノ自身の所為でもあるじゃないかっ!!」

(エンドレスで言葉の応酬は続く)





(一方それを離れた場所で眺める二人)

「・・・・・・災難だったな、レイ」

「・・・・・・ああ」

「・・・・・・あいつら、仲いいな」

「・・・・・・ああ」

「なんかまるで子犬がじゃれてるって感じがしてならないけどな」

「子犬・・・・・・そうか、子犬か。あいつらは子犬なのか!!」

「レ、レイ・・・?」

「そうだ、あれは子犬だ。決して健全なる男子の行いではない。子犬なんだ!!」

「・・・・・・駄目だな、こりゃ・・・」

(こちらもエンドレスで続く)





あとがき

書いちまった・・・・・。
種デス初の作品が、シンヴィノとは相河自身も驚きです。
日記にも書きましたが、相河の中ではレイ→シン⇔ヴィーノ←ヨウランの形が今絶好調で際立っています
ちなみにこれは、同盟に捧げる予定です。
友人と共に主催してるから捧げるってのもなんか編ではありますが(苦笑
ではでは、読んでくださってありがとうございました!!
2004/10/28




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