約束言われた言葉の意味がわからなかった。 あいつが・・・打たれた? 目の前には、怒りのあまり震えているアスランと、壁に八つ当たりしているディアッカの姿がある。 「・・・・ニコルが・・・・ストライクに・・・?」 こぼれた言葉は、俺の口から出たものなのだろうか。 ―――――嘘、だろう・・・ 「おい、イザーク、大丈夫か!?」 「何がだ?」 「・・・顔色悪いぞ、それに・・・」 オマエ、ナイテイルゾ・・・ そう言われて、頬に手をあててみると、確かにそこは濡れていた。 とめどなく溢れ出てくるその雫を、俺は認めることが出来なかった。 「・・・・部屋に、戻る・・」 「ああ・・・」 2人とも俺を止めようとはしなかった。 それほどまでに俺はひどい表情なのだろうか・・・ キーロックを開け、部屋に入った途端俺はベッドに倒れこむようにして横になった。 先の戦闘までは、確かにそこにいた、あいつ。 けれど、今はもう、いない。 「何故・・・何故お前がいないんだ・・・ニコル・・・」 自分でも驚くほど憔悴しきった声。 こんなにもあっけなく人の命は散っていくのか!? どうしてお前が逝ってしまわなければならないんだ!! 責めたくなる想いと同時に、俺は嗚咽を漏らしながら泣き出した。 君がいないこの場所が、こんなにも色褪せて見えるなんて・・・ 「ニコル・・・お前は俺との約束を破る気なのか!?」 問うても答えは返ってこない。しかし、イザークには目の前に申し訳なさそうに謝るニコルが見えた気がした。 そう、あの日交わした約束を守れないことが無念だと言うような表情をして・・・ 「イザーク!!またこんなに脱ぎ散らかして・・・」 「うるさい。お前には関係ないだろう?」 「関係ありますよ!!僕だってこの部屋に来るんですからね!!」 「それがどうした」 「汚い部屋に来るよりも、綺麗な部屋に来るほうがいいじゃないですか!!それに、イメージが狂います」 人差し指を立てながらずずいと進言して来るニコルに、俺は参ったと言うような笑みを見せた。こいつがこの部屋に来るようになって早数ヶ月。 このテの言い争いは必ずと言っていいほど俺が負ける。だからと言って、不快な気分になるわけでもなく、むしろ心の中が温かくなる。 「そういえば、今日はどうしたんだ?」 「え・・?理由もなしに来てはいけないんですか?」 「駄目なわけではないが・・・・珍しいな」 「・・・・もうすぐ作戦じゃないですか・・・」 「ああ、今度こそ足つきを、そしてストライクを撃つ!!!」 うずく傷は俺に憎しみと闘争心を与えてくれる。 コーディネイターの医学技術を持ってすればこの傷を消すことなど造作もないことだったが、あいつを打つまで俺は消さないでおこうと決めていた。 ただ、この傷を残すにあたってニコルは必ず反対するだろう。 「・・・その傷、残すつもりでしょう?」 「・・・・・・」 「イザークの考えることなんてお見通しですよ」 「・・・・俺は・・・」 切なそうに微笑むニコルに俺はとっさに何か言わなくてはならないという衝動に駆られた。 しかし、その言葉は音になることはならなかった。 「別に反対はしません。ストライクを撃ったら消すつもりなんでしょう?」 「ああ・・・」 「それならいいんです。それじゃあもうすぐディアッカも戻ってくるでしょうし、僕行きますね」 にっこり笑って、部屋を出ようとしたニコルを、俺は無意識のうちに引き寄せていた。 気づけば、腕の中にすっぽりと納まり、脱出しようともがいているニコルがいた。 「ちょっと、イザーク!?」 「心配はいらん。俺は絶対に死なないし、おまえを残して死ぬ気もない」 「・・・・けど!!」 「約束する。お前を残して逝ったりはしないと」 「イザーク・・・」 今にも泣きそうなニコルをぎゅっと抱きしめながら、俺は更に続けた。 「戦争を終わらせて、そしたら2人で一緒に暮らさないか?」 「え!!」 囁いた言葉は、常々思っていたこと。 戦争が終わったら、ニコルが嫌がっても一緒に暮らすつもりだった。ずっと、一緒に。 いつ言おうか迷っていたが、今言っておかなければならないような気がした。そうしなければ、駄目なような・・・。 「いやか?・・・といってもお前に拒否権はないがな」 維持の悪いような笑みを浮かべると、今まで目を見開き驚いていたニコルが瞳を潤ませ返してきた。 「相変わらずですね、イザーク。人の都合も考えてくださいよ」 「断る気はないんだろう?」 「・・・・ええ。嬉しいです」 そういいながら、ニコルは大粒の雫を涙からこぼし始めた。そして、俺の服を掴み胸に顔を寄せてないた。 俺はその体を抱きしめながら喜びをかみしめていた。 しばらくして落ち着いたニコルは、とても嬉しそうに俺に話しかけてきた。 「僕、イザークに聞いてもらいたい曲があるんです」 「曲?・・・ああ、お前はピアニストだったな」 「そんな、ピアニストじゃないですよ。ただ趣味でコンサートとか開いているだけで・・・」 少し頬を紅く染め照れながら答えるニコルの髪を梳きながら、俺は話の続きを促した。 「それで?」 「ああ、コンサートとか、来てくれないでしょう、って言うか一応仲が悪いことになってますからね、僕ら」 「・・・別におれは言ってもいいんだぞ。むしろ言いたいくらいだ」 「独占よく高すぎです」 「・・・・それで?」 「微妙にダメージ受けましたね」 「話の続きをしろ!!」 クスクスとおかしそうに笑うニコルを怒鳴りつけるが、気にしてないような素振りで続きを話し出した。 「この間引いてたんですけど、その曲イザークのイメージにぴったりなんですよ。だから・・・その、僕の演奏ですけど、聞いてもらえませんか?」 「ああ、だがしばらくは無理だぞ?」 「分かってますよ!!戦争が終わってから・・・ううん、戦争を終わらせたら、一緒に暮らし始めたら、聞いてください」 「ああ。その曲だけでなくいろんな曲を聞かせてくれ」 「はい!!」 そう答える嬉しそうな笑顔は、今迄見た中で1番のものだった。 それなのに、まだ戦争は終わってないのに・・・あの約束を交わしてからまだ日も浅いというのに・・・ 「何で俺を置いていくんだ・・・一緒に暮らそうって・・・・お前お演奏を聞くって約束・・・したのに・・・」 ずっと一緒とにいようと約束したはずの君は、もういない。 この世界の何処を捜しても・・・・ 「戦争を終わらせる。ストライクは必ず俺が、討つ・・・・。そうしたら・・・俺はお前の許に、いこう・・・」 だから、今だけはお前のぬくもりの残るこの部屋で、弱い自分でいさせてくれ・・・・ お前という支えを失ったもろい存在に・・・ |