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永遠に・・・ 分かたれた道。 それは、もう2度と交わることはない・・・・ それでも、ぼくは君を選ぶことは出来なかった・・・・・。 「本当によかったのか?この艦に残ることにして」 「ええ、皆が残ってるのにぼくだけ降りるって言うのもできませんし・・・」 「だが・・・」 「いいんです。たとえ降りたって、もうぼくは・・・・」 「キラ・・・」 そう、例え降りていても、もう今までのキラではいられない。 自分はもう何人もの同胞をその手で殺めてしまったのだから・・・。いまさら民間人としてのうのうと生きていけるはずなかった。 ―――皆もここに残っているし・・・ぼくは間違ってなんかないんだ・・・君は怒るだろうけど・・・ そう思って、はっとする。 自分と彼はもう完全に決別したはずなのに。 互いに撃つと言ったはずなのに・・・。 それなのに、ふとした瞬間、彼のことが頭の中でよぎる。 彼を裏切ったのは、自分なのだ。何度も手を差し伸べてくれた、大切なあの人。 ―――・・・それでも、トールたちも大切な友達だから・・・。裏切れない・・・ 人に優先順位なんてつけられるわけない。どちらも大切な、友達。 彼は、大切な人だけれど・・・・ 「おい、何ボーっとしてるんだ?」 「ぁ・・・すいません」 「別にいいが・・・。そんじゃま、行くかね」 「?行くって・・・どこへ?」 「おいおい、人の話聞いとけよ。艦長からお呼び出しだよ」 「そう、ですか・・・すいません・・・」 「いやいや気にするな。じゃ、気を取り直して行くか」 「はい」 考えが暗くなっていっていたのでフラガの態度はどこか安心できるものがあった。 そして、自分の選択が間違っていなかったのだと、思えたのだった。 しかし、その考えは、すぐ覆されることとなった。 「1体だけを誘導して集中攻撃、ですか?」 「ええ、本来ならばそうなんだけれど、友軍がいっせいに出撃しないと戦力的に危ないの」 「そこで、我々は今言ったことの反対のことをする」 「反対の事、ですか?」 いまいちナタルの意味することがわからなかった。 何かあるのだろうかと気を引き締めフラガとともに艦長室へ出向いたのだが、そこにいたのは艦長であるマリューと副艦長であるナタルであった。 2里ともこの間にはなくてはならない重要な人物であり、2人そろってブリッジから離れることはキラの記憶にはまずなかった。その2人が現在目の前にそろっている。いったい何があるのだろうと、誰だって思うだろう。そして、それはキラも同じだった。 「ふーん、つまり、敵のMSのうち1体だけをおびき出して撃つってこと?」 「ええ、その通りです。もちろん、普通にやって簡単に勝てるとは思えません。ですからダメージをそれなりに与えた後おびき出し、そこで・・・」 「止めを刺す、ってことか。これは艦長の案?」 「・・・・・いいえ、上からの命令です」 苦笑しながら答えるマリューにフラガはやっぱりな、と言い話を促した。 キラには話が急すぎて混乱するばかりだったが、かろうじて敵のGを落とすための作戦だということは分かった。 「そこで、キラ・ヤマト、お前に敵機をおびき出し止めをさして欲しい」 「え・・・・ぼくが、ですか?」 「ああ、お前には重荷かもしれないが、フラガ大尉の機体では性能の差があるからな。やってくれるな?」 「・・・・・・はい」 突然言われ、混乱していた頭の中が益々混乱した。返事が言えただけでもましだった。 撃つ、つまりその機体に乗っているパイロットを殺すこと。 今更嫌だ、だなんて言えるはずがない。 選んだのは自分だから、同胞を敵に回すと決めたのは自分なのだから・・・・ そう、思い込もうとした瞬間、キラの思考は止まった。 思いもよらぬ、いや、あえて考えようとしていなかった名前がナタルの口から出たのだ。 「目標は、GAT-X303イージスだ。次に攻撃されたとき作戦を実行する」 「キラくん。戦力は十分温存しておいて」 「援護は任せて思い切り頼むぜ、キラ」 3人の言葉は聞こえるのだがどこか遠いところにいるかのようにあまり聞こえなかった。 目の前が暗くなるというのは、こういうことなのだろうか。 3人の期待をキラは一身に受けてしまっていた。 考えてみれば、この選択が1番妥当だといえよう。 イージスは、4機の中でも唯一変形できる機体で1番厄介な相手だ。 まるで夢の中を彷徨っているかのような錯覚に陥る。 イージスを撃つ=パイロットを殺す それは、キラがアスランを殺すということを指しているのだ。 「・・・わかり、ました。イージスを・・・・撃ちます」 漸く言えた言葉は、自らの心を傷つけるものだった。 キラの言葉にどこかほっとしたところがある3人は口々に何かを言ってきたのだが、キラの耳には何も入らなかった。 その場に合わせ安心させるような表情とは裏腹に、キラの心は冷たくなるばかりであった。 それからまもなくして、艦全体に警報が鳴った。 自室にいたキラは決意した表情で部屋を後にした。胸には彼からもらったトリィをいれて。 1通の手紙を残して・・・・ 「ストライク、行きます!!」 いつものように艦を飛び出した白き魔獣がいつもより輝いて見えた。 ブリッジの者たちは皆作戦を知っている。だから余計にそう見えてしまうのかもしれない。 しかし、トールたちは不安で胸が押しつぶれそうであった。 敵のパイロットにはキラの友達がいることを、知っていたから・・・ 「キラ・・・・どうか無事で・・・」 願わずにはいられなかった。 無事にアークエンジェルに戻ってきて欲しかった。 「ねえトリィ、ぼくは自分の選択が間違ったなんて思っていないんだ」 胸にいれたトリィを出し自らの肩に止まらせる。 穏やかな笑みを浮かべながら、キラは続けた。 「でもね、やっぱり選びきれてなかったみたい・・・・。もうぼくはこれしか選びたくない・・・」 我が儘だと思った。自分勝手で、嫌になるくらい。 きっとあの人には嫌われるだろう。けれど、それでも良いと思えるほどキラは追いつめられていた。 言われて気づいたのだ。彼がいなくなるのは嫌だと。 彼を自分の手で殺めるのは嫌だと。 彼がいない世界で生きるのは嫌だと。 「ごめんね、アスラン・・・・」 そして白き魔獣は紅の機体へと駆け抜けた。 一斉攻撃から数十分が経ち、ブリッジからの入電が来た。 『これより作戦を開始する!!』 心なしか、ナタルの声が震えているような気がした。 緊張しているのだろう。 『キラ、Aポイントにイージスを!!』 「はい!!大尉もお気をつけて・・・」 『お互いな!!』 「今までありがとうございました・・・・」 『キラ?』 聞き取れなかった最後の言葉を聞き返すが、すぐにバスターたちへと思考を切り替えた。 心に一抹の不安を感じて・・・・ 「アスラン、向こうで決着をつけよう・・・」 『・・・・・良いだろう』 通信から聞こえてくる声は、紛れもなくあの人で。 3年前一緒にいたはずの親友で、大好きな人。再びあったのは戦場で、そして次に会ったときは敵だった。 「戦う前に少しだけ話しようよ・・・」 キラはいい逃げするように、アスランとの通信を切りハッチを開ける。アスランも最初は戸惑っていたが、キラが本気なのを知り、ハッチを開いた。 「・・・久しぶり、アスラン」 「・・・・そうだな、キラ・・・」 言いたいことはたくさんあった。けれど、いざその場面に立つと、何もいえなくなる。涙があふれそうだった。 「ごめんね・・・君のところへいけなくて・・・」 「!!・・・・・今更、それを言うのか!?」 アスランが起こるのは無理ないな、と思いながら、キラはアスランに、イージスに近づく。 『キラ?何をしているの!?』 『キラ・ヤマト!!作戦を実行しろ!!フラガ大尉のほうはあと5分が限界だ!!』 耳元にアークエンジェルからの通信が入る。ミリアリアと、ナタルだ。自分の不可思議な行動に驚いているようだ。 「あと、5分か・・・・」 「・・?キラ、お前何を・・・」 つぶやき、全てを問いただされる前に、キラはアスランに抱きついた。アスランはいきなりのキラの行動に固まってしまった。 「キ・・・キラ?」 「・・・・アスラン。君は僕が撃つって言ったよね?」 「・・・ああ。俺がお前を討つとも言った・・・」 「・・・もうね、疲れちゃった。戦うことも、喋ることも、生きることも・・・・」 「・・・・・・」 キラは、アスランから体を離すと、微笑んだ。その瞳は、いつの間にか涙で濡れていた。 アスランは、昔のくせでキラを慰めるために抱きしめようとしたが、それは出来なかった。 パンッ 何かがはじけた、しかし小さい音が響いた。アスランは、目を見開きキラを見つめていた。いや、睨んでいた。 「・・・な、ぜ・・・キラ」 「ごめん。ぼくに任された作戦。イージスを落とすこと」 「キラ!!」 「・・・・・・でもね、ぼくもういやなんだ。だから、終わらせようと思って・・・」 キラがこちらに近づいてくる。このままでは本当に危なかった。キラが打った場所は的確に急所を捉えていたから。薄れていく意識の中、キラに撃たれて死ぬのだから本望かもしれない、とアスランは自嘲気味に思っていた。 「トリィ!!」 「・・・トリィも、一緒に行こう・・・。アスラン、ぼくね、自分の選択は間違ってないと思ってた・・・」 「・・・キラ?」 「でもね、いざアスランを撃てと言われて・・・そしたら嫌だって、アスランがいなくなるのは嫌だって思った・・・」 「キラ・・・」 「我が儘だよね・・・本当、もう自分が嫌になる。・・・それでももうこれしか選びたくなかったんだ・・・」 涙で顔をぬらしながら微笑むキラは、アスランを撃った銃をアスランに持たせ、迷いもなく自分の腹部を撃った。 「キラ!!・・・何・・して・・!?」 「・・・アスラン、一緒に行こう。行って、いっぱい遊ぼ・・昔みたいに・・・。今度はトリィも一緒に3人で・・・」 「キラ・・・・」 キラは、アスランに抱きつくように身を寄せ、トリィの起動プログラムを停止させた。耳元からは、たぶん艦からの通信が入っているのだろう。悲痛な叫びが聞こえる。 『キラ?キラ!!・・・・イヤーーーー』 『キラくん!?キラくん、何をやっているの?・・・・フラガ大尉、キラ・ヤマトの元へ至急向かって!!様子がおかしいの』 キラは、それらの、自分への通信を無視し、アスランに微笑む。 アスランも、自然と微笑んでいた。 「そうだな・・・・昔みたいに、トリィも入れて3人で遊ぼう。朝も、昼も、夜も・・・」 「・・うん・・・」 そうして、2人は抱きしめあうと、静かに目を閉じた。 『アスラン!!応答してください、アスラン!!』 『キラ!!・・・おい嘘だろう?キラ!!キラ・ヤマト!!』 『アスラン、何をやっている!!さっさと・・』 『・・・・・嘘、だろ・・?』 それぞれのパイロットたちが叫ぶ中、2人は何物にも邪魔されない世界へ旅立った・・・・。 それぞれに、いろいろな思いを残して・・・・・ 「・・・・・アスラン様?・・キラ様?」 遠いプラントで、久しぶりの休みを過ごしていたラクスは突然襲ってきた胸の痛みと溢れ出す涙であの心痛む2人の名を無意識につぶやいていた。 「・・・・お2人は今も戦っていられるのでしょうか・・・」 運命のいたずらか、それともただの偶然か。ラクスは知ってしまったのだ。2人の悲しき決意を。 双方ともに想いあっていながら剣を向ける辛さを。 何度願っただろうか、2人が戦わずに済むことを。 「ラクス様、大変でございます!!」 ばたばたと普段は慌てることのない人物が慌てた声でやってくる。 何かあったのかと想いながら目元をこすり扉を開けた。 そして、新たな雫がこぼれたのであった。 |