■第8章〜闇に潜む心〜■






広がる重い空気。 ただ座って、こちらを見ているだけだというのに、その気迫、重圧は今まで出会ったコーディネイターの中では1番だった。

しかし、負けるわけには行かない。

怯える必要もない。





「御用は一体なんでしょう、評議会の皆様」
「われわれは一刻も早く戦場に帰還したいのですが」




そう、そうして復讐するのだ。

同胞が最後まで夢見ていたあれを、実現するのだ。





「君達の事は知っている。君たちが、普通のコーディネイターではない事は」
「・・・・・へえ、それは真に面白い話ですね」
「その根拠は何処から?」
「アスラン。お前を拾い、育てたのはこの私とレノアだ」
「そしてラクス、お前もだ。私と妻が拾い、今まで実の娘として育てた」
「・・・・・・・・」
「隠さずとも良い。お前たちが何者なのか、聞くつもりもないのだから」




評議会のメンバーは自分も同じ意見だとうなずく。

4人にとって、この事態は予想外のことだった。呼び出しを受けた時点で、何かの意図を含んだ命令を下されると思っていた。だから、認めるわけにはいかないと思ったのに。

深く追求はしない。

それはつまり、自分たちの事を黙認してくれると言うことなのだろうか。





「ただ、これだけは言っておく。お前たちがこちらに不利な事を仕掛ける場合、我々は全力を持って貴様達を排除しにかかる」
「それ・・・・だけ?」
「ああ。それだけだ」
「じゃあ、通信でもよろしかったのでは?」
「・・・・・・ここからは、一人の人間としての頼みだ」
「え・・・」
「いくら我々がナチュラルと戦争しているからと言って、全てのナチュラルが憎いわけではない。むしろ、こんな争いしたくない」




――争いが、嫌い――





「だが、ここで大人しく引き下がったら、我々の意思はどうなる?いつかは殺されてしまう」
「我々は生きる人形ではないのだ。あいつらの思い通りに動く人形では」




――このままでは、皆殺されてしまう。個人を失ってしまう――





「だから、君達に頼みたい。コーディネイターでも、ナチュラルでもない、君達に」
「君達ならば、如何にかしてくれると信じるからこそ」




――敵を、復讐を・・・・・そして望みを。私達の想いをどうか・・・・――













彼らの言葉に、重なる。

昔、近くで聞こえていた声が。想いが。

ああ、そうか。

自分達は同じ人間なのだ。

そして、同じようにして操作されて来た生命。

同じ想いを、願いを抱いていないわけがない。

同じ境遇に立たされ、同じ選択を受けさせられ。

同じ答えを選びはしなかった。

でも、やはり、同じなのだ。









「其の頼み、しかとお受けいたします」
「我々4人、必ず成し遂げて見せます」
「この身体に流れる血に誓って」
「私達、クウォメイカーの末裔の誇りと自信に誓って」
















ふっと、笑った気配が伝わった。

見ると、評議会のメンバーが微笑んでいたのだ。親愛の情を傾けるように。





「では、頼もう」
「君達に、行って守って欲しい国がある」
「カガリ嬢、君の大切な場所だ」
「オーブ」
「中立国であるこの国を、連合の上層部は攻め落とそうとしている。再三の協力要請を蹴ったからと言うことで」
「中心となって動いているのは」




「ムルタ・アズラエル。ブルーコスモスの盟主であり、上層部との癒着を持つ男」




言いかけた言葉を繋いだのは、キラだった。

そして、それに続くのはアスラン。





「奴は今新型のMSを率いてオーブを攻め落とそうとしている。そろそろ出撃する頃だ。違いますか?」
「そうだ。だが何故そんな極秘情報を?」
「世の中はケーブルで繋がっていますもの。除けない場所はありませんわ」
「要するに、ハッキング、したんだ。何かつかめるかもと思って」




ラクスは限りなく笑顔で。カガリはどこかバツが悪そうに。

沈黙が辺りを支配した。

だが、それはすぐに崩れた。評議会のメンバーが笑い声を立てたからだ。





「流石と言うべきか。君達は本当に行動が早いな」
「本当は、呼び出さなくても向かったんじゃないのか?」
「ええ、行くつもりでしたよ。そして、終わらせるつもりでした」
「・・・・・・・終わるか?」
「終わる、のではなく終わらせるのですわ。私達の手で」
「そのために、僕たちは立ち上がった」




振り返っては駄目。 ただ前だけを見て、進むのだ。 そうして、終焉をこの手で。















「君達ならば、大丈夫だな」
「向かうといい。いや向かってくれ」
「言われなくても」




清々しい笑顔だった。

送り出す、彼らの表情は皆。

4人は促されるように部屋を後にしようとした。だが、アスランとラクスは何か心残りがあるのか、なかなか退出しようとしない。





「アスラン?早く行きなさい」
「ラクスもだ」
「父上・・・・」
「お父様・・・・」
「何だ?」
「今まで、ありがとうございました。俺は、父上と母上の子供であることに誇りを持っています」
「私も。何処の子供か知れないのに、限りなく深い愛情と共に育ててくださってありがとうございました」
「アスラン・・・」
「ラクス・・・・」




向けた笑顔は、何の迷いもない、秘められた決意があるもの。

ずっと言いたかった。思い出してからずっと。

自分達の両親は、自分達の子供でもないのに、今まで育ててくれた。たくさんの愛情と共に。

目に見えたものではなかった、不器用な愛情でも。

まるで風のように、包み込むような愛情でも。

たくさんもらったことには変わりない。





「では、失礼します」
「再び合える日を、楽しみにしていますわ」




声をかけさせる暇も作らず、アスランとラクスは退出した。外で待っているのは、唯一の仲間。

けじめをつけたい、と言わずとも、彼らはわかってくれていた。





「アスラン、これで貸し1つ消化だよ?」
「ああ、まあいいさ。後1つ残っているのだし」
「それもすぐ消化させてあげるよ」
「まあまあ、2人とも、今はそんなことはなしている場合ではありませんのよ」
「そうだぞ。一刻も早く戻ろう。それにキラ、私達もけじめをつけないと」
「・・・・・・・・そう、だね」




オーブへと向かおう。

そこには今度はキラとカガリのけじめがいる。

きちんと心残りは消化した方が、後の戦いで大きく動けるものだ。





4人は横に並び、歩き出した。

ひとまずシャトルでラクスとカガリにはオーブへと向かってもらおう。キラとアスランはフリーダムとジャスティスで。

自由とで正義で向かおう。





ザフトの制服を着た者たちが忙しそうに走り回るその横を、真っ直ぐな瞳で彼らは通り抜けていった。

















さあ、最後にしよう。

僕達は今、最後のスイッチを押すのだ。

これを押せば、もう後戻りは出来ない。

失敗も許されない。





最後の、戦いだ。





ナチュラルに復讐を。

同胞の無念を晴らすのだ。









そして、成し遂げよう。

同胞が、自分達が、この世界に生きる人々の誰もが描く未来を。





































































会場に浮かぶ一隻の戦艦。

その中には、極秘裏に開発されたMSが積まれていた。

ブリッジには、口をつり不適に笑う男がいる。彼の視線は、前方に見える画面越しのオーブという国。





「呼びかけをしてください。定刻までに協力を承諾しないと、攻撃を開始する、と」




そう言い残すと、返事も効かず男はブリッジを後にした。

そして、向かうのはMSがある格納庫。既に出撃準備のため集まった3人のパイロット達の元。

コーディネイターにも対抗できるナチュラルとして、いくつもの研究と実験を重ねて生まれたMSのパイロット。

MSの付属品。





「君達、おそらく定刻を過ぎたら出撃するから、準備はして置いてくださいね」
「・・・・・うぜぇ」
「暴れていいんだよね?」
「勿論。指定するもの以外は全て壊してください」
「よっしゃあ!!!」




喜ぶ面々に、男は笑みを更に深くすると再び去っていった。





さあ、始めましょう。

全てのコーディネイターを。自然の摂理に反した生物を死に絶やす為に。

お祖父さん、貴方の遺言をかなえる為に。









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