■第9章〜全てが終わるとき〜■






世界は、どこへ向かっているのだろうか。



同じ人間。



しかし、違う人間。



自然に生まれた者と、人為的操作を受け生まれた者。



異なるのは生まれ方



そして



その器



あらゆる知識を溜める器の大きさ。







しかし、それがなんだという







人間である事に変わりはしない。



心を持っているのだ。



誹謗中傷されれば、傷付く。



幾ら身体の構造が逞しく出来ていようとも心まで鋼ではないのだ。



力があるからこそ、繊細で脆いもの







それなのに、何故







自然に生まれてきた人間―ナチュラルは、人為的に生まれてきたからといって何も感じないと思うのだろうか。



傷付かないと、思えるのだろうか。



無理難題を押し付けるのだろうか。



嫌悪することを押し付けるのだろうか。







ならば何故生み出した。



何故心がある事を考えない。











何故、同じ過ちを繰り返すのだ。



どうせ認められず、受け止めきれないのならば、生み出さなきゃいいのだ。



それなのに。







どうして・・・・・・



















































「アスラン、もうすぐ着くよ?」
「分かっている。カガリたちが到着するのは、何時頃だ?」
「さぁ・・・時間まで確認してないよ。そのうち着くさ」
「そうか」


遥か下方に見える1つの島国を画面越しで見つめながら、キラとアスランはそれぞれの機体で海上を翔けていた。

ラクスとカガリはシャトルでオーブへと向かう。その際、直接オーブに行けるわけではないので、一端先日までキラとアスランも滞在していた戦艦に戻る事になっている。

だから、シャトルの時間なんて確認できないのだ。



「ねー、できると思う?」
「俺に聞くな。それに、あいつらに関してはお前のほうがよく知ってるんじゃないのか?」
「そっちはね。僕が言ってるのは」
「こっちか・・・・。五分五分って所じゃないのか?」
「そうか・・・・・」
「期待はなるべくしないほうがいい。というか、そんなもの、必要ないだろう?」
「誰に言ってるの?」
「キラ・ヤマト」
「違うよ、アスラン。もう僕は、キラ・ヤマトじゃない」


温厚で、お人好しなキラ・ヤマトはもうどこにもいない。

全てが始まった日、いなくなったのだ。

それが辛いとか、嫌だとか、思ったことはない。思うはずない。しかし、寂しいと感じるときは、やはりある。

自分でも笑えてしまうけれど。



「いや、未だキラ・ヤマトだよ」
「・・・・・・・」


余裕しか感じられないその声音に、キラはぎゅっと手に力を込めた。

キラ・ヤマトに執着はない。それは本当のことだ。

しかし、アスランの言葉に嬉しく思う自分がいる。未だキラ・ヤマトであると言われ、歓喜を示す心があるのだ。



「さ、着くぞ」
「・・・・・分かってる」


いつの間にか小さかったオーブの大陸は眼前に堂々と広がっていた。

既に連絡を受けているらしいモルゲンレーテの職員の誘導に導かれながら、キラとアスランは上陸した。





――オーブ――





その国は、理想の国

全てが等しく、差別のない国

誰もが、願った

クウォメイカーの夢と希望の形。

















































機体には一切触れるなとハッチを空けた早々いいのけた2人は、どこからともなく現れたキサカに先導されウズミがいるという部屋に向かっていた。

キラにとってキサカは久しぶりの再会となる。

出会いは、砂漠。

別れたのは、このオーブ。

そして再会したのも、このオーブ。

互いに言いたい事はあった。例えば、この国の姫として育ったカガリのこと。しかし、どちらもそれを切り出しはしなかった。キサカに関しては、切り出せずにいたのだ。キラの纏っている雰囲気が、以前とは真逆になっていることを悟っていたから。



かつかつと、静かな回廊に3人分の足音のみが木霊する。

大きな窓の外を見れば、自然豊かな一種の庭園が平和を強調するように広がっている。逆の窓の外を見れば、大海原が遠くに見えた。

ここは未だ、平和だ。

この地が戦場となる事は、どうにもなく遣る瀬無かった。

今、この世界においてただ1つ実現している国だから。

出来れば、失いたくないのが本音だ。

遠い目をして窓の外を見ながら歩くキラに、アスランは軽くため息をついた。キラの思惟など、手に取るように分かってしまう。また、それと同じことを自分も考えているので、どのような感情がキラに去来しているのか嫌になるくらい分かってしまうのだ。

ここにいない2人の女神だって、そう思うはずだ。

しかも、片方はずっとこの国で暮らしてきたのだから・・・・・。



「ここだ」


不意に前方のキサカが立ち止まり、大きく立派な造りの扉を指した。

ここに、今は退いてはいるが、実質的なオーブの代表がいるのだ。

オーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハが。



キサカがノックをすると、入れ、という声が返ってきた。低く、威厳のある声が。

キサカが扉を開けると、大きな机の反対側に、白髪交じりの神の男性が背を向けて立っていた。窓の外を眺め、立っていた。



「お2人を連れてまいりました」
「ご苦労だった」
「では、私は」
「・・・・・いや、お前もここにいなさい」


下がろうとしたキサカを引き止めると、男は振り向きキラとアスランを見た。真っ直ぐ芯の通ったその瞳で。



「別に、構わないだろう?」
「ええ。僕は構いません」
「キラがいいというのならば。それにあなたが残したとい言うのならば彼は信用にたる人物なんでしょう?」
「ああ」


意図が分からないキサカは開けかけた扉を閉めると、そのままそこに待機した。

ウズミは、ゆっくりと傍にあった椅子に座る。そして、キラとアスランにウズミの向かい側にある椅子に腰掛けるよう促した。

促され、座った2人は早速話を切り出そうとしたのだが。



「カガリは、元気かね?」


唐突に発せられたのは、娘を思う親の心だった。









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