何処で僕たちは間違えたのだろう。
一緒にいなくても、
心はいつも一緒だと思っていたのに。

目の前に現れた君は
ダークレッドの軍服を着て、知っているはずの君は
知らない人になっていた。



彷徨う心



「大丈夫、キラ?またこんなに残して・・・・」
「そうだぞ。キラ、ここに来てからめっきり食が細くなってないか?」

心配そうに、しかし少々怒っている節が見えるミリアリアとトールに囲まれ僕は目の前にある食事を箸でつついていた。

「うん。でも、本当にお腹空いてないし、大丈夫だよ。心配かけてごめん」

こう言えば、流石のトールとミリアリアも、何も言わなくなる。言えなくなってしまう。
計算して言葉を選ぶ自分は、本当に汚い。これが意図的ではなく無意識の行いなのだから尚更だ。

「そう?ならいいんだけど・・・・・」
「無茶だけはするなよ、キラ」
「うん、ありがとう。ミリアリア、トール」

2人の優しさに触れながら。
頭の中にあるのは、小さな、しかし消えない疑問。
何故は僕は、ここにいるのだろうか。








ー――それは、ミリアリアやトール。友人が、オーブの避難民がこのAAに乗っているから








この事実がなかったら、この艦に地球軍のものしか乗っていなかったら。きっと、自分はこの艦の事などとっくの昔に見限っていたはずだ。見捨てていてもおかしくはない。
だって、向こうには彼がいるから。
ずっと求めていた、彼がいるから。

「じゃあ、僕ちょっと部屋で休んでるね」
「うん。・・・・・・・・ちゃんと寝るのよ、キラ」
「当たり前だよ。ミリアリア。・・・・・・・・ありがとう」
















キラが自室へと戻り、食堂に残されたミリアリアとトールの2人は、キラがいなくなった瞬間眉をひそめた。
日々キラの顔色は悪くなるばかり。しかも、食事の摂取量だって減るばかりだ。また、ヘリオポリスにいた頃見ていた笑顔は消えつつある。
このままではキラは壊れてしまうのではないだろうか。2人の中にその思いが芽生え始めて既に数日。その不安は日に日に色濃くなっていく。

「本当に、大丈夫かな。キラ。どんどん元気なくなっている気がする」
「ああ。あいつ本当に、信じられないくらい優しいからな。傷付いていても絶対に表出さないだろうし」

3年にも及ばない付き合いではあるが、キラの人間性を知るには十分だった。
偽りの平和の中でのんびり穏やかに過ごしてきた。その時でさえキラの優しさは時にトールたちを酷く心配させた。

「この間・・・・・ユーラシア連邦での、アルテミスの傘での一見以来、戦闘で必要になる以外のときは部屋に閉じこもるかストライクの整備しているかのどっちかだし」
「飯もろくにとってないような感じだしな」
「心配だわ・・・・・」

ひっそりと、しかし確実にキラの精神は蝕まれている。それが分かるというのに、何も出来ない。
それが悔しくて、また歯痒かった。

「どうすれば、あいつに笑顔が戻るんだろう」
「本当・・・・・。どうしたらいいんだろうね」





本当は、分かってる。でも気付きたくないだけ。

それは、自分たちの命にも関わることだから。だから、気付きたくないだけ。

しかし、キラを思う気持ちは、心配する気持ちは、本当だった。






キラは、彼らの思いを知らない。

キラの心に、彼らの思いは届かない。






依然として、キラの心は出口の見えない迷宮の中。一筋の光もささない、闇の中。

















































「オイ、坊主!!」
「・・・・・・・フラガさん?僕に何か用ですか?」

億劫な動作で振り向くと、自分に向かって歩み寄る同じパイロットのフラガがいた。その気さくさは誰の心にも明るさをもたらすが、キラは彼が苦手だった。
軍人であるのは別になんとも思っていない。
今こうして、軍服を着てストライクを駆っているのも自分の意思だ。
しかし、その切欠は、彼にある。彼の言葉がなければ、自分はストライクに乗り続けることをしなかった。

「あ・・・・・・・いや、な。用って言うか、歩いていたから声かけただけなんだが」
「そうですか。用がないなら僕は部屋で休むんで失礼します」

用もないのならば自分の事は放っておいて欲しかった。
今は1人になりたい。そうでないと、自分が保てなくなってしまう。

「ちょっ、ちょっと待てって。少しでいいからさ、茶、付き合えよ」
「・・・・・・・・・なんで、ですか?僕部屋で休みたいって言いましたよ」

部屋へ向かうためフラガに背を向けたが、すぐさま彼に腕をつかまれてしまった。
つかまれた瞬間、その腕を振り解きたかったが、一応フラガは自分よりも目上で、パイロットとしては先輩で、また軍人ではない自分たちの身を預かってくれている。
下手に失礼なことは働けなかった。

「ちょっと位いいだろう?キラ・ヤマト君」
「・・・・・・・・・・・・・・・・分かりました」
「そんじゃ、俺の部屋行こうぜ」

人の好きそうな笑みを浮かべて。フラガはキラの腕をつかんだまま当てられた部屋へ向かおうとする。
キラは半ば諦めながら、フラガに引っ張られるまま向かう、が。

「・・・・・・あ、ちょっと待ってくださ・・・・・!?」
「どうした?」

何かを思い出したように呼び止めたキラが、途中で吃驚したように自分の胸に手を当てていた。訝しむフラガなど、目に入っていなかった。

「ここに・・・・・・ずっとここにいたの?」
「坊主?」

囁くように、愛しげに訊ねるキラ。フラガはこんなキラ、見たことがなかった。
男だと分かっていても今にも消えてしまうのではないかと思うくらい儚く、頼りない。守ってやりたい、傍におきたい、そう思わせる。

「トリィ、いつの間に・・・・・」
《トリィ、トリィ♪》

フラガの部屋に行く際、トリィも連れて行こうと思ったのだ。多分キラの部屋辺りを自由に飛んでいるだろうから。
しかし、トリィはキラの服の中にいた。おそらく無意識の内にキラが胸部分に収めたのだろう。もしくはトリィがいつの間にか潜り込んでいたか。

「本当、トリィはここが好きなんだね」

くすりと笑みを漏らし、可愛らしく首をかしげるトリィの頭を軽くつつく。

その姿は、慈しみに溢れていた。
「気を取り直していこうぜ、坊主」
「はぁ・・・・」




忘れられているのではないかと思い、少々大げさではあるがキラの方を抱き込み先を急かす。
応えるキラの表情は、AAに乗艦して以来見ているものとなんら変わりなかった。






先程のような、キラが男であることを忘れるようなものではなかった。




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