「また・・・・会えるよね?」

「うん。キラが、そう願うなら・・・・また必ず会いにくるよ」

「約束だよ?」

「ああ、約束だ。だから、涙を止めて」

「うん」



それから、大好きなあの人が去ってから、数年のときが経ちました。
でも、未だに約束は果たされないまま・・・・・・・


そして僕は、かつてあの人が通っていた母校に通っている。






SEED学園
〜プロローグ〜

再会






本日、某有名SEED学園では春休みという短いような長いような、そんな適度な長さの休みを明け、進級した生徒たちの始業式が執り行われていた。

長いだけで、眠くなるような校長と教頭の話に耳を傾けるものは誰1人としていない。

そう、誰1人として。

月に1度行われる全校朝会ですら、起きているのは、本の一握りの、それも生徒会役員に携わるものたちばかり。

そして、今日も例外なく起きているものはそのメンバーだけ・・・・・ではなかった。

おかしなことに、全校生徒きっちり皆目を覚ましているのだ。

寝ているのは・・・・・キラ・ヤマトだけであろう。

密かに男子生徒の間でアイドル化している、正真正銘男のキラ・ヤマトは、少女のように可憐で可愛い顔立ちと、おっちょこちょいで無邪気な性格のお陰で、男子にはもう、それはそれは好かれている。

女子においても然り。

男子生徒の中には、熱烈アタックをしてくる不届き者もいたが、当の本人であるキラが、全く気づいておらず、キラを口説き落としたものは誰1人としていない。

しかも、キラの周りには常にキラを密かに守る男たちがいた。彼らは、キラのよき友人であり、互いに牽制し合う好敵手同士でもあった。

キラの前では、全くその素振を見せたことはなかったが。















「では、今学期の間この学校で本当の教師となるべく弁を振るう教育実習生を紹介する」

校長が、そう言うと、3人の生徒よりも僅かに年が高い男女がステージの上に上がった。

1人は、桃色の、ふわふわとなびく長い髪をひとつにくくり、やわらかい微笑を浮かべている女性。10人中10人皆美人、と言うであろう顔のつくりをしている。

1人は、金髪の肩にかかるかかからないかのぎりぎりの長さの髪に、先ほどの女性とは正反対で、どこか近寄りがたい雰囲気を纏いながらも人をひきつける何かを持つこれまた女性。

先ほどの女性が静ならば彼女は動だろう。

最後の1人は、男性だった。濃紺の髪に、吸い込まれそうな翠色の瞳。どこまでも整った目鼻口。人々の視線を一身に浴びているというのにもかかわらず、その姿勢は堂々としたもので、上に立つ者、という印象を与えた。

彼ら3人は、校長の話によると全員この学校の卒業生だそうだ。

しかし、そんなこと皆がきちんと聞いているはずもなく。

男子生徒は、2人の女性に。

女子生徒は、1人の男性に。

ほうっとした様子で目線を逸らすことが出来なくなっていた。



「初めまして、教育実習生としてここでしばらく皆さんとご一緒させていただきますラクス・クラインと申します。まだまだ勉強中の身ゆえ、いろいろと拙い部分はありますが、どうぞよろしくお願いします」

桃色の髪の女性――ラクスは、外見どおりふわふわした口調でそう告げると、マイクを渡した。

「初めまして、カガリ・ユラ・アスハだ。私もまだまだ勉強中なので、結構失敗したりすると思う。けど、日々努力は欠かさないつもりだ!短い期間だが、よろしく」

金髪の女性――カガリは、その外見が女性らしくなければ間違いなく男性と間違われていただろう様な言葉遣いで締めくくった。

「初めまして、アスラン・ザラです。言いたい事はこの2人と一緒だったりするんですけどね。俺は機械工学関係を趣味にしているからもしそっち方面に興味がある人がいたらぜひ聞いてください。短い間ですが、どうぞよろしく」

おそらくと苦情と思われるスマイルを何の惜しげもなく見せ、女子生徒に声にならない悲鳴を上げさせた彼は、1人の眠っている生徒を見つけて微かに目を見開いた。




数年前。

長年住んでいた場所から、両親の仕事の関係で引っ越さなければならなかったとき。

アスランは、幼馴染だった年下の少年と約束を交わした。

幼いながらに、真剣で、本気だった。

そして、その少年と、見つけた男子生徒は、その容姿があまりにも酷似していた。









無事式典も終わり、クラス発表なども終わり生徒が下校していく中、アスランは技術実験室、という名の、昔馴染みの場所へと向かっていた。

アスランが学生だったときにもその教室はあり、主に使用するのは、工学部の生徒と顧問のみという、変わった教室だった。

今アスランが向かっているのは、現顧問の教師に、折角だから指導してやってくれと頭を下げられたからだ。

どうやら、その顧問は形だけで、生徒に何も助言してやれないことが前々から気になっていたという。

もともとアスランは、頼まれた事をノーとは言えない性分だった。

勿論、本気で嫌なときは相手に文句を言わせないほど華麗な手腕で断るのだが。

そんなわけで、今回の件に関しては断るどころか興味があったりしたので、二つ返事で受けたのだった。




いざ、その教室に足を踏み入れると、生徒は1人しかいなかった。

そこで、まだ3年はHRが終わっていない事を思い出す。

2年でも、まだ終わっていないところがそれなりにあるであろう事も。

おそらく、この生徒は、とりわけ早く終わったクラスの者だろう。

とりあえず挨拶ぐらいはしておかなきゃね、と結論を出したアスランは、コンピューターの画面にかじりつくようにしている男子生徒に、邪魔をすることに申し訳なさを感じながらも、声をかけた。

「ちょっと、いいかな?」

「え・・・・・・・・」

「ごめんね、邪魔して・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・ぇ」

人の好きそうな笑顔で申し訳なさそうに謝罪を続けようと思ったのだが、それは振り返った男子生徒の顔を見て見事に中断させられてしまった。

その顔立ちには、見覚えがあった。

いや、見覚えじゃない。

離れてからの数年間、1日だって忘れたことのなかった年下の幼馴染の顔。

初めて、自分だけに笑いかけて欲しいと願った大切な人。

その人物が目の前にいるのだから。

「アス・・・・・・・・・・ラン?」

「キラ・・・・・・・?」

「アスラン・・・・・本当にアスラン!?」

「ああ、全く変わってないな。キラは」

「どういう意味だよぉ・・・・」

「言葉どおり」

「むぅ・・・・・」

「むくれない、むくれない」

「それにしても、吃驚した。でもどうしてここに?」

「俺はここの教育実習生。1人だけ寝てる生徒がいると思ってたけど、やっぱりキラだったか」

「あはは・・・・」

苦笑いで何とか誤魔化そうとしているキラをジト目で見ながらも、アスランは嬉しさを隠しきれていなかった。

それはキラも同じようで。

ほんのり上気した肌は、満面の笑みが刻まれている。





約束は


果たされた




「アスラン、久しぶり」

「ああ、キラ。久しぶり」






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