「うそぉ・・・・・」



茫然自失、一言で表すならば、今のキラの状態はそれに限りなく近いだろう。

コントロールを手に持ったまま、ブラックアウトした画面から視線を動かせない。画面に表示されているのは、キラにとっては受け入れがたい、自分の負け、を意味する言葉だった。

ラクスを挟んで左のアスランも、さすがにこうなるとは予測できたはずもなく、キラよりは幾分かましだが、驚きを隠せずにはいられなかった。

唯一、真中のラクスだけが平生と変わらず、しかしいつもよりは満足げな笑みで手にしていたコントロールを床に置いた。



「私の勝ちですね」

「ええ、そう・・・・・みたいです」

「二人とも、どうかなさいまして?」



未だにコントロールを手に持ったまま画面に釘付けのキラと、コントロールは床に置いたものの、纏う空気が心なしか重いアスラン。ラクスは左右に座る二人を交互に見ながら首を傾げた。

すると、画面に釘付けだったキラがコントロールを置き、そのまま仰向けに寝転がると言う行動にでた。



「アスラーン・・・・・」

「なんだ?」

「僕、結構・・・ううん、かなり自信があったんだ。このゲーム一番やりこんでたし、裏技とかもばっちりだし」

「そうだな」

「アスランにだって勝てるって・・・・自信あったんだ」

「そうか」

「・・・・・・・・・・・・・かなりへこむ」

「そうだな」



真中にラクスを挟んだまま二人は会話を続ける。アスランの相槌がぞんざいに聞こえるのは気のせいだろうか。

相槌を打ちながらアスランはブラックアウトした画面から最初の画面に戻ったらしい画面を一人手馴れた様子で操作している。ラクスは目をぱちくりさせながら途惑っていた。

もしかして、キラの気分を損ねてしまったのだろうか。不安がラクスの胸に過ぎる。

しかし、その心配はすぐに払拭された。



「よぉーし、ラクス!!」

「はいっ」

「リベンジだ!再戦を申し込みます!!」

「ぇ・・・・?」

「勿論、アスランもやるよね?」

「当たり前だろう」



なにを馬鹿なことをいってるんだ、とでも言いたげな声音でアスランが返すと同時に、画面がキャラクター選択の画面に変わった。

どうやら、再戦を申し込む、若しくはする事はキラが言い出すまでもなく予想していたようで、先程からアスランはそのための準備をしていたようだ。



「準備完了。後はキャラ選択するだけだ」

「さすがアスラン!さ、ラクス選んで」

「ぇ・・・あ、はい」



先程教えてもらったのと同じ手順で、先の選択と同じキャラクターを選択した。チャイナ服を着こなす、お団子頭の妙齢の女性キャラだ。

ラクスが選択すると、今度はアスランがカーソルを動かし先程と同じキャラクターを選択した。赤を基調とした服を纏う、どちらかというと全キャラクターの中でもいかつい感じがしない、知的タイプの男性キャラだ。しかし、剣を持たせると素晴らしい腕だ、という設定をラクスは知らない。

最後にキラが待ってましたと言わんばかりにそそくさと、やはり先程と同じキャラを選択する。伸ばされた髪の毛を無造作に一つに束ね、白を基調とする服を身に纏い、筋肉を隠す事無く誇示する男性キャラクター。キラが一番手塩をかけて育てたキャラクターだった。

ラクスが選択したキャラはスピードを、アスランが選択したキャラクターはスキルを、キラが選択したキャラクターはパワーを、それぞれ異なる部分が重きを置くキャラクター達だった。



「今度は絶対に負けない!」

「お手柔らかにお願い致します」

「それは俺たちの台詞ですよ、ラクス」



試合開始の合図と共に手に汗握るバトルは火蓋を切って落とされた。



















「それで、結果は?」

「うふふ、また私の勝ちでしたの。嫌ったらそれはもう酷く悔しがっていましたわ。アスランにも負けていましてからね」

「ラクスって格闘ゲーム強いのね」

「強いといいますか・・・・・此処だけの話し実は適当に操作したら必殺技でしたのですよ」

「・・・・・・・幸運だったわね」



綺麗な笑みを浮かべている従兄妹の幼なじみに対し、フレイは苦笑すら浮かばなかった。

話によると、その幼き日のキラはそのゲームに通じていた。しかし初めてに近い経験のラクスにいともあっさりと完敗している。しかも、キラに買ったラクスはでたらめな操作で勝ったという。



「キラって子がそのこと知ってたら倍に落ち込んでたわね」

「そうでしょうか?」

「そうですよ」



やはりどこか天然なのだろう。ラクスは無邪気に首を傾げている。

ふとしたときには腹黒ささえ感じ、敵に回してはいけないと感じさせるというのに、このギャップは何なのだろうか。

しかしこれ以上考えても仕方がないだろう。きっと、納得のいく答えは出ないのだから。そう結論付けると、即座に気持ちを切り替え、フレイは続きをせがんだのだった。