このまま玄関にいるわけにも行かない、ということで、アスランは当初の通りラクスを客間へと案内した。キラは勝手知ったる何とやら、といった感じで、何の違和感もなくアスランの自室へ向かった。

客間に到着し、荷物を置くと早々にアスランは退出しようとした。

キラを部屋で待たせているからだ、という事は考えるまでもない。表情にもありありとそう書かれていた。

変化を願ってはいたが、此処まで急激だと少々慣れるのに時間がかかるかもしれない、と頭の片隅で考えながら、扉を閉めかけていたアスランを呼び止めた。



「なんですか?」

「私暇なんです。よろしければ混ぜてもらえませんか?」

「・・・・・・・・・・おれたちは別に構いませんが、退屈だと思いますよ」

「そんな事はないですわ。一人でいるよりずっとましですもの」

「一人って母さんは・・・・・ああ、そういえば今から出かけるって言ってましたね」



レノアはアスランに客間へ案内するよう厳命された時、ついでとばかりに今から外出する旨も言われた事を思い出した。

本来ならばレノアが客であるラクスをもてなすのが道理だろう。アスランでも構わないのだが、以前からキラとの約束があるとレノアには伝えていた。さすがに全く初対面の、しかも異性といきなり長時間過ごせというのはあまりよろしくない。アスランが一緒だといっても、だ。

しかし、急遽仕事が入ってしまったらしい。

ラクスが到着する数十分前に電話口に母が揉めていたのをアスランは目撃していた。お茶をして落ち着く時間が出来たのは、偏にラクスが予定よりも遥かに早く到着したからだ。



「ええ。お邪魔だとは思うのですが」

「いいえ。ラクスを一人で放って置くと母さんに怒られますからね。俺も、キラも」



苦笑を浮かべ、アスランは閉めかけていた扉をそのままにして廊下に向かって叫んだ。



「キラー、客間に来てくれー」

「・・・・・・・・分かったー」

「アスラン?」



突然キラを呼ぶアスランの行動の意図が読めず、ラクスは困惑気な視線をアスランに向けた。しかしアスランはまだ廊下を見たままでラクスの様子に気付いていなかった。

すぐに小さな足音と共にキラがやって来た。



「なに?」

「母さんこれから仕事でいないんだ。ラクスを放って置くわけにも行かなくてな」

「あ、そういうこと。どうしよっか・・・・」



すぐにキラは自分が呼ばれた理由を理解したらしい。

アスランは思案顔で、キラを見た。キラもまた思案顔でアスランを見ている。



「アスラン、キラ。あの、私のことでしたら」

「あ・・・・すみません、ラクス。実を言うと俺たちこれから学際の準備をしようと思っていたんですよ」

「そうすると、ラクスさんを放置するのと同じ事になっちゃうから、どうしようかなって思って」

「まあ、私のことなど気にせず準備をしてくださいな」



自分の所為で二人がしなくてはならないことを妨害するのは嫌だった。ラクスは扉付近に立つアスランとキラに近付く。

しかし、返ってきたのは気にするな、と言う二人の笑顔だった。



「いいんですよ、別に今日じゃなくても。どうせ仕上げだけですから学校でも出来るし」

「そうそう。・・・・・・・・・・・僕としてはゲーム大会とか提案したいのですが」

「それはお前がしたいことだろう?・・・・・・・・まあ、それが一番妥当だがな」



意見は揃った。

アスランとキラは示し合わせたわけでもないはずなのに、同時に互いの視線を互いからラクスへと変える。同時に見つめられ、ラクスの方がびくりと小さくはねた。



「テレビゲームをした経験は?」

「は・・・?」

「テレビゲームですよ。RPGだったりアドベンチャーだったり、シミュレーションやシューティングとか、兎に角テレビゲームをしたことありますか?」

「・・・・・・・・数回、だけならありますけれど・・・」



それを聞きアスランとキラの目が光ったかのようにラクスは見えた。









流されるようにキラとアスランに導かれ、ラクスはアスランの部屋へとやって来た。

昔覘いたときと殆ど変わらない、統一感溢れる部屋だった。ただ、昔と違ってそこにはきちんと生活している痕跡がある。以前覘いたときには感じられなかったものがあった。

扉の所で躊躇していると、キラが背中を優しく押した。キラが後ろにいたことをつい忘れてしまっていたようだ。

謝罪の言葉を口にしてラクスはアスランの自室へ足を踏み入れた。そして、首をめぐらせ室内を見渡した。



「俺の部屋が珍しいですか?以前と殆ど変わってないと思うんですが」

「・・・・・そうですね。殆ど変わってませんわ」

「それじゃあ、どうして」

「・・・・・幼なじみの部屋とすこし似ているような気がしましたの」

「へぇ・・・・じゃあ、ラクスさんの幼なじみってアスランに似てるのかもしれませんね。綺麗好きで常に整頓されて気がすまないとか」

「そういえば・・・・そうですわね。几帳面で塵一つ残したくないといった感じでした」

「あのな、キラ。俺は別に綺麗好きでもないぞ」

「でも僕の部屋に来るたびに掃除しろって言うじゃないか!」

「・・・・・・・・・お前の部屋は汚いんだ。自覚ないのか?」

「う・・・・・」



いつの間にかキラとアスランのコントになってしまったが、それはそれでラクスは楽しかった。

もともと表情が豊かなのだろう、キラはくるくると起こったり笑ったり口を尖らせたりしている。表情に乏しいアスランでさえ、キラに感化され眉を寄せたり呆れたり、表情が次々に変わっていく。

見たことのない一面に出会う度にラクスは嬉しさがこみ上げてきた。

しかし、アスランの感情発現現場に出くわすたびに驚いて言葉を失ってアスランに心配されるのは少々いただけない。折角感情が人並みになったのだと、大袈裟な反応を見せるのはアスランの不快を募らせるかもしれない。

よし、これから慣れるまで不動の精神を心がけよう。

ラクスが思案の結果をはじき出し決意を固めさせた所で、自分に向けられた視線に気がついた。

アスランもキラもいつの間にか、夫婦漫才のような遣り取りをやめて自分を注目していた。



「あの・・・・アスラン、キラ?」

「先程からぼーっとしてますけど、疲れてるんですか?」

「疲れてるんだったらゲームは止めといた方がいいかもしれないですね。更に疲れるから」



このままでは折角二人が学際の準備を後回しにしてくれた甲斐がなくなってしまう。ラクスは焦って言い募った。



「疲れてなどいませんわ!ただ、二人は仲がよろしいなと考えていただけで・・・・」

「そう、ですか?」

「ええ、そうです」

「・・・・・・・じゃあ、はじめましょうか」



いつの間にか用意されているゲーム機の電源を入れ、アスランは真中の場所をラクスに勧めた。それに応じてラクスは真中の場所に腰をおろす。左にアスラン、右にキラが座る。二人が手馴れた様子で選択肢を選んでいき、対戦画面が開けた。

無制限の三人対戦の幕が上がろうとしていた。