■第3章〜あふれ出る想い〜■ 「お父様、お話がありますの」 「?ラクスか・・・何だい?」 「私を、地球に向かわせて欲しいのです。ある事をするため」 「ある事?」 「ええ。内容はいくらお父様でも言えませんが、総ては戦争を終わらせ、平和を得るため」 そう微笑む少女は、何の迷いもなく、ただひたむきな想いと決意を込めた瞳を見せた。 シーゲルはそんな娘を誇りに思うと同時に、一抹の不安をも感じる。 何をするかなど予測するのは、難しい。ラクスの行動を予測しようと試みるだけでも無駄なこととなる。一度言い出したことは最後まで必ずやり通す。ラクスはそんな子だ。 「止めても無駄だろうな・・・」 「ええ、それはお父様が一番ご存知なのでは?」 「そう、だな・・・しかし」 「ええ、危険は承知です。ですから、私をアスランのいる部隊に」 「アスラン君の?」 「ええ、彼の隊はザフトの中でもトップクラスの、つわもの揃いの部隊です。隊長のクルーゼ様をはじめ皆様優秀な方々ばかり」 「ふむ・・・・・とりあえず、検討はしてみよう」 「ありがとうございます。それでは私は用がありますので」 「ああ」 シーゲルの部屋を後にし、ラクスは微笑を消す。 今のところこの計画に支障はない。 アスランのいる部隊、クルーゼ隊に行けばあとはこちらのものだ。 「そう、全ては同胞のため、平和のため・・・・」 ■□■ 「あら、どうしましたの?そんなに驚かれた顔をして」 何故目の前にいる気人物が驚いているのか分かっていてもそんな面は見せることはない。 ここでは、ラクスは天然少女のままのイメージだろうから。 「驚くも何も・・・・なんで貴方がここに!?」 「プラントを追われたからですわ」 沈黙。 「ええ!!!!!」キラの声は館内全てに響き渡りそうな、とにかく普段の彼から出るだろうとは思えないものだった。 キラの中でのラクスという存在は一にアスランの婚約者、というものである。 そして、とても優しく強い人、というものだった。 平和を求め、戦いや争いを悲しむラクスにキラは少なからず癒された部分もある。 そんな彼女がプラントを追われるなんて・・・・。 そう、簡単に信じられるものではなかった。キラの記憶が正しければ、アスランの父親はプラントでもそれなりの高い地位の人物のはずだ。そして、前ラクスがこの艦に来たとき耳にした彼女の父親はプラントの最高地位の人物だったはずである。 そんな彼女が何故プラントを追われたのだろうか・・・。 キラの中に大きな疑問が渦巻いていった。 「えっとな、嬢ちゃん」 「なんでしょう?」 「君のお父さんはプラントの最高評議会議長さん、だったよね?」 「ええ、それが何か?」 「そんな人物の娘が追われるなんて、信じられると思うか?」 「・・・・そうですわね」 「そうですわね、って。ラクスさん!!」 きょとんとして微笑む彼女に脱力感を感じながらもキラはラクスを見捨てることは出来なかった。 今彼女のした話が真かどうかなんて分からない。けれど、彼女は、ラクスはアスランの婚約者なのだ。彼と、幸せになる人物なのだ。 自分もラクスには救われたところがある。だからこそキラはラクスに詰め寄るフラガに牙をむこうとした。 しかし。 「私、お父様の本当の子ではありませんもの」 つむがれた言葉はやはりこの場を沈黙させるだけのものはあり、そして、皆を固まらせることの出来るものだった。 「「「「ええ!!!!!!」」」」「あらあら、今日は皆さん大きなお声を出してばかりですわね・・・」 「誰の所為ですか、誰の!!」 その場にいた誰もが彼女は天然だ、最強だとその頭に刻み付けたことは言うまでもないだろう。 「と、とにかく。こちらにプラントの情報などはありませんし貴方の言っていることを全て信用できることは出来ません。ですから・・・・貴方には悪いのですけれど」 「この艦に乗艦させていただけるだけでもありがたいですわ」 「そうですか・・・・ヤマト少尉、彼女を前回と同じ部屋へ」 申し訳なさそうな表情で、マリューはキラに言った。 本当はこんなことをしたくはない。この少女がまさか敵のスパイだなんて、想像できなかった。ナチュラル、コーディネイターと差別の多い中、しかも戦争真最中の敵を和ませてしまうのだから。 文句の一つでも言うつもりであったキラだが、そんなマリューの表情を見ていると何も言うことはできなかった。 「分かりました・・・・。ラクスさん」 「まあ・・・ラクス、とお呼びください、キラ」 「いや、でも・・・・その・・・」 慌てふためくキラをラクスは愛しそうに見つめた。 そして、確信した。 彼はそうだと。自分の求め人物なのだと。 「こら、キラ。さっさと連れて行きな。ここは火薬やら弾薬やら危険だしな」 「あ、はい!!」 フラガに促され、キラはラクスの手を引っ張りながら目的地である場所へと目指した。 誰も疑わせず、逆に受け入れさせたといわんばかりの彼女の演技に気づいた者は誰もいなかった。天然少女を表現している一方、ただ悪態しか音にせず状況を冷静に分析し、行動パターンを考える。そんな自分が嫌ではないが惨めに感じることがある。 自分の目的はただ一つなのだ。だからこそ、あの場所で、彼らに宣言したのだから アスランは、くれる夕日を見ながらその日何度目か分からぬため息を吐いた。 ここ最近、アスランの悩みの種というか頭から離れないのは偶然にも再会し望まぬうちに敵対関係となってしまった幼馴染であり親友のキラだった。唯一感情をさらけ出せた相手、といっても過言ではない、大事な存在だった。 そんな彼と戦争という名の殺し合いをする羽目になり、アスランの心はやまぬ雨が降り続いている。 そんな中さらに悩みの種が出来たのだ。 今度は自分の婚約者であり対の遺伝子を保有しているラクスであった。 突然地球に降り立ちクルーゼ隊の前に現れたときは皆誰もが固まり、驚かざるをえなかった。 ラクス・クラインという存在はコーディネイターたちの光といっても間違いではない。彼女の歌声に癒される人は数多くいる。 容姿もさることながら、自らユニウスセブンの追悼慰霊団の団長を務めるなど、平和を求める彼女は誰からも慕われていた。 そんな彼女が突然戦地に現れたのだ。驚かないほうがおかしい。 そして、さらに彼女は爆弾を落としていったのだった。 「・・・・もう一度伺ってもよろしいでしょうか」 「ええ、ですから、私はアークエンジェルに乗り込むためにこちらに参りましたの」 「あの、足つきに・・・ですか?」 「ええ。全ては平和を手にするために」 「何故足つきに?」 「ある人物を探していますの。それが誰かは分かりませんが、あの艦に乗っていることは間違いありません」 「しかし・・・御身が危険にさらされますが」 「そのようなものを気にしていたら、今私はこの地にいません」 「そうですか・・・・しかし」 なるべく穏便に事を収めようとするクルーゼをよそにラクスは引く気など微塵もなかった。 全ては平和を手にするため、必要不可欠なのだ。 平和を手にするため・・・・ 彼らの無念を晴らすため。願いを叶えるため。 どうしても必要な人物があそこにいる。 ラクスにとって大切なのはそれだけであり、他を気にすることはなかった。 「あなた方の手を煩わせる気はありません。ただ、私を乗せた救命ポットをあの艦の近くに流してさえいただければ」 「それが危険なのです」 「危険は百も承知で申しています。お願いします」 どちらも引くことをせず、中心で言い合っている二人以外は皆ただただ見ていることしか出来なかった。 何が彼女をそこまで駆り立てるのだろう 湧きあがる疑問の答えを持つものは、導き出せるものはその場にはいなかった。 そして、ついにクルーゼは折れることとなった。 「御身が危険だと思われたらすぐにその救命信号を」 「はい、いろいろと申し訳ありません」 「・・・・無事をお祈りしております」 「ありがとうございます」 その微笑みは清らかさや優しさだけでなく強い意思を感じさせるものだった。 あれから数日。 彼女はどうやら無事に足つきに乗艦することが出来たらしい。 彼女が捜し求めている人物を見つけられたかは分からないが胸の奥で何かが疼いていた。 誰かが、自分に何かを訴えているような、そんな錯覚に陥りそうな その疼き。 やはり口から出るのは思いため息ばかりのアスランは何かを振り切るように頭を振ってその場を後にした。 訴えてくるのは、悲しく、心が引き裂かれそうな、痛み |