■第4章〜覚醒〜■ 「・・・・ぅ・・・・」 「?アスラン、何か言いました?」 「ふん、そんなやつの言うことなど無視すればいいものを」 カーペンタリア内基地で、ニコルたちクルーゼ隊のパイロットたちは、ラクスにもしものことがあったときのために待機を命じられていた。 場所は指定されていないが、皆考えることは一緒で、ミーティングルームに集まっていた。 「イザーク・・・あなたって人は・・・」 「何とでも言え」 「心狭いねー、イザークは」 「黙れ、ディアッカ」 たわいない会話を交わしながらそれぞれゆったりとした時間をすごしていた。 アスランを除いて・・・・ 「アスラン、ラクス嬢のこと心配なんでしょうね・・・」 「そりゃ心配位するだろ、普通。婚約者なんだから」 「しないほうがおかしい。止めようともしていたみたいだしな」 「何気にイザークって、アスランのこと見てますよね・・・・」 「何だと!!」 普段ならば、ニコルがイザーク、ディアッカと会話を交わすことは少ない。 なぜなら、たいてい一人で行動するアスランにくっついているからだ。 だが、今日はラクスのこともあり、一人のほうがいいだろうというニコルの配慮からアスランは、一人離れた場所で、ボーっとしていた。 いや、しているはずだった。 「・・・て・・げて・・・・メロ・・・・・」 だんだんと聞こえてくる声は大きくなる。しかもその声音は、苦しみにも似たものがあった。 流石にイザークやディアッカも無視することができなくなったらしく、お互い顔を見合わせると、ニコルを促した。 ニコルはその視線を受け、立ち上がりアスランの元に行こうとする。 そのとき。 「嫌だ!!!逃げ・・・・早く逃げて!!!と・・・さん・・・・か・・・ん・・」 「アスラン?」 「やめろーーーー!!!!」 一際大きな声を上げ、3人を驚かせる中、アスランは立ち上がり、また座った。 ニコルは訝しげにアスランに近づき、そして、声を失った。 「?ニコル・・・どうか、したか?」 ニコルに気付いたアスランは、自分の顔を見て驚き固まっている年下の同僚に首をかしげる。 自分の顔を凝視して、何が楽しいのだろうか・・・? 「・・・・アスラン、何で泣いて・・・」 「え・・・・?」 言われて目元に手を持っていくと、そこは確かに濡れていた。 今なお涙があふれ続けている。 胸に突き刺さる痛みといい、原因不明なこの涙といい、アスランはわけが分からなくなった。 ふと視線を感じて後ろを向くと、そこには、ニコルと同じように、もしかしたらそれ以上に驚いて言葉をなくしている同僚が2名。 「イザーク・・?・・・ディアッカ・・・?」 「「・・・・・・・・」」 問いかけても、ショックが大きすぎたようでまだこちらに戻ってきてはいなかった。 ニコルはそんな2人にため息をつきながらも、アスランに視線を向けゆっくりと言葉を紡いだ。 「何かあったんですか?」 「あ・・・いや、俺にも何で泣いているのかわからなくて・・・」 「じゃあ、さっき喋っていたのも?」 「え・・・あ、それ多分寝言だと・・・思う」 「寝てたんですか、こんなときに」 「ボーっとしてたら急に睡魔に襲われて・・・つい」 「・・・・・・・アスラン・・・」 「そんな顔するなよ!!俺だって睡眠は必要なんだよ!!」 ニコルの呆れた視線を感じて、必死で弁解してみるが効果はなさそうだった。 そんな会話のおかげか、ようやくイザークが戻ってきたようで、しかしまだショックが抜け切れなかったらしい彼は、あえて会話に入ろうとはせず、傍観者に徹した。 「で、どんな夢見たんですか?」 「・・・・・・・分からない」 「分からないって、あなた・・・あんなに大きな声で叫んでいたのに・・・」 「思い出そうとすると、霧がかかったように記憶が薄くなるんだ」 ニコルに話していることは真実。 このごろよく眠気に襲われ見ているらしい夢。 けれど、起きたときにその夢の内容は全く覚えていない。思い出すことも出来ない。 残っているのは、 負の感情ばかり。 「そうですか・・・」 ニコルはそういって、この話を終わりにしようとした。 「アスランもちゃんと泣けるんですね」 失礼極まりないことを呟いて 「ニコル、おまえなぁ!!」 「だって、そうじゃないですか。この頃のあなたは確かにおかしいですけど、それ以前に僕はあなたが泣いた所など一度も見たことありませんでしたよ」 「それは同感だな」 「ディアッカまで・・・お前ら人を何だと思っているんだ・・・」 恨めしげに睨むが、ニコルもディアッカも全く気にならない様子で笑っている。 そして。 「自業自得だろう、アスラン」 止めの言葉がイザークより投げかけられた。 ■□■ 薄暗い牢の中。 ラクスはじっと一点だけを見つめ、考えていた。 ここに連れてこられる際、ハロは取り上げられてしまった。ハロに鍵をはずせる機能が搭載されていることは彼らの知られていたところらしい。 まあ、それも当たり前というか仕方がないというか。 何せ、あんなに部屋を抜け出してキラに会いに行っていたのだから・・・・。 「これからどうしましょう・・・・」 まさかこんなに早くばれるとは思いもしなかった。 いつかはばれる・・・いや、ばらす気でいたのは事実なのだが、それは全ての準備が整ってからのはずだった。 まだ、目覚めていないのだ、あの人の記憶は。 彼の記憶が目覚めなければ、何も始まらないし、始められない。 4人、そろわなくては意味がない。 そんな時。 「元気か?」 声をかけられる。 知らない人。 しかし、知っている人。 「この様子を見て、元気か、と尋ねられるカガリが羨ましいですわ」 「それだけ言えれば元気だな」 くすっと笑う気配がして、こちらに近づく気配がして、 そして、カガリの姿が視界に入ってきた。 「こちらに顔を出してもよろしいの?」 「いいわけないだろう。こっそりと来たんだ」 「まあ・・・・ばれたら怒られますわね」 「ああ。だから用件は手短に済ませるよ」 「分かっています」 ラクスはにっこりと微笑み、カガリを見つめた。 キラについていき彼女の部屋の前まで行ったとき、ラクスは初めて覚醒している仲間の気配を感じた。だから、危険を承知で入室したのだ。 室内にいたキラとフレイとカガリとを見て。 ラクスは人目でカガリが仲間だと、同じ運命を、宿命を背負うものだと悟った。 それはカガリにも言えた事らしく、一瞬表情が変わっていた。 誰も気がつかない位一瞬の小さな変化を。 「お願い事をしてもよろしいかしら?」 「どうぞ。・・・そのつもりで来たんだからな」 「では、今晩・・・」 そこで一旦区切り、ラクスは今まで浮かべていた笑みを消し去って続けた。 「今晩ここにキラを連れて来てください」 「分かった」 「計画は狂いましたが、早期に進むのは歓迎することですもの・・・」 「お前らしいな」 「ありがとうございます」 ここでの役割は、彼を目覚めさせること・・・。 それももうすぐ叶うこと・・・・ |
あとがき(見たい方は反転してください)
初めてあとがきなるものを書きました、このシリーズで・・・(ェ