■第5章〜運命の下〜■ キラは絶対に渡さない。 フレイの心の中に去来しているのはこれだけだった。 自分の大切な父親を殺したコーディネイターを殺してもらうため。 キラのことを分かってあげられるのは自分だけだから、他の皆はキラがどれだけ傷つき苦しんでいるかなど気付きもしないから。キラの心が自分だけを占めていればいいから。 「だから・・・・・キラをたぶらかす奴は・・・私が殺す・・・・」 手にしたものを見つめ満足気に微笑むとフレイはゆっくりと歩き出した。 誰もが背筋の凍るような、ぞっとする笑みを浮かべて・・・・・。 向かうのは 捕虜を監禁する為の牢。 キラの心をたぶらかすコーディネイターの少女のいる場所・・・・・。 「これからどうするんだ?」 「そうだね・・・とりあえず、ラクスはいったんザフトの方へ戻って」 「それは何故ですの?」 「やって貰いたい事があるんだ」 薄暗い牢の中、キラとラクスとカガリはこれからのことについて話していた。 記憶は全て戻り、自分たちが何をなすべきなのかも分かった。今は1人足りないが、彼もじき目覚めるだろう。いや、すでに目覚めているかもしれない。 とにかく、集結の日は近いのだ。 そして、始まりのときも。 「やって貰いたい事・・・ですの?」 「うん。君とアスランとでやれば、必ず出来るよ」 「そうですか・・・・。それで、何をすればよろしいのですか?」 キラはその返事が満足だったのかニコニコと笑いながら、さらりと言ってのけた。 「僕をザフトに入隊させること」 「え・・・・・」 「キラ・・・・お前何考えてるんだ?」 返ってきた反応は、もちろんキラの予想範囲内、いや、予想していた返答そのものだった。 キラとて今しがた自分が言った事がかなり困難を極め、かつ自分たちの計画に狂いを出す恐れがあることも分かっている。 だが、ザフトは、いやコーディネイターと呼ばれる人々は、言わばキラたちクウォメイカーの直系の子孫であるといっても過言ではない。 「いい、考えてもみなよ。僕たちは全ての人間・・・・ナチュラルと呼ばれている彼らへの復讐を決行しなければならない。しかも4人で」 「ああ、私たち以外誰にも手出しはさせない」 「その為に、とにかく今は技術が欲しいところだよね?それも完成している」 「だからザフトを利用しようと?」 「そう。謀らずとも目的に似通ったところはあるし、なんせナチュラルの抹殺に近いことをザフトは掲げてる。これ以上利用するに値する条件の揃った場所はないと思う」 「そう・・・ですわね」 「どっちにしろザフトも僕たちにとっては使い捨ての駒でしかないけど」 さらりと言いのけて、キラは意地の悪い笑みを見せた。 今までのキラはこんな笑みをしたことがなかった。人を疑うという事を、全くと言っていいほどしなかった、心優しき少年だ。しかし、覚醒したからだろうか、今までの面影など欠片も残ってはいない。 裏切りをこの艦の者たちに知らせる時が楽しみだ、と本当に楽しそうに語るキラの瞳は、少なからず輝いていた。 「なぁ、キラ・・・・」 「何?カガリ」 「お前・・・・素の時もそれで通すつもりか?」 「そう・・・だけど?」 渋い表情のカガリをキョトンとした様に、しかしどこか不思議そうに見るキラに言葉を濁らせながらも、カガリは続けた。 「双子の妹として忠告する。ザフトに行くまでは今までどおりで通せ」 「・・・・・・・なんで?」 「ギャップが激しすぎるんだ!!!!!」 一瞬カガリの言葉の意味が分からなかったのか、キラはぽかんとした表情を見せたが、すぐさま腹を抱えて笑い出した。ラクスも堪えられなかった様に肩を震わせて笑っていた。 カガリは、顔を赤らめながら笑う2人を恨めしそうに見つめた。 「あはは、ちゃんと、分かってるよ・・・」 「そうですわよ、カガリもそうだったでしょう?」 「・・・・・・・・・・・・」 「もう、怒らないでよーカガリ」 「うるさい」 「うふふ、それはさておき」 無邪気に戯れているような2人を諭すようにラクスは切り出すと、いきなり表情を変えて言い放った。 「こちらに誰かが御出でのようですよ?」 「・・・・・・ふーん」 「こんな時間に来る奴なんて・・・・1人しか思いつかないんだけど・・・・」 「ちゃんと寝てるの確認したんだけどな・・・・・・」 「つめが甘かったようですわね、キラ」 「みたい」 何の危機感も感じていないような会話を繰り広げながら、3人は、それぞれ切り抜け方を考えた。 こちらに向かってくる人物についての心当たりはある。いや、その人物以外考えられなかった。 普通に切り抜けるには、彼女は少々分が悪かった。 普段ならば笑って切り抜くことも可能だが、今回に限ってそれは無理に近かった。いくら優れていても、嫉妬に取り付かれた彼女は鬼気迫る勢いでここに向かっているはずだ。いや、殺意を持って向かっているかもしれない。 そんな彼女に常識は全く持って意味をなくす。 いや、これまでを考えると、もう止められる術はないだろう。 ならば・・・・・・ 「決めた。僕はとりあえず隠れるから、ラクスはこの騒ぎに乗じて、カガリを人質にして逃げて」 「私を人質に?」 「適材適所」 「あっそ」 不満をぶつけるカガリをばさりと一刀両断し、キラは続けた。 ラクスはそんなキラの言葉に耳を傾けながら、いつ行動を起こしてもいいように体勢を整える。 「カガリも彼女がラクスに襲い掛かるまで隠れてて。襲い掛かったら、さも今来ましたって顔で止める」 「そこで私がカガリを人質にして、この艦から脱出する、と」 「大正解。よく分かってるじゃん、ラクス」 にっこりと、誰もがため息をつきたくなる様な笑みをラクスに向けた後、未だ不貞腐れたカガリを向いた。 「拗ねないの。一応カガリは向こうに行ってやって貰わなければならないことがあるんだから」 「あいつの・・・・あの人の目覚めを?」 「そう。彼がいなければ、僕はザフトに行くことすら出来ないからねー」 「・・・・・・・・分かった」 「よかった。それじゃあ」 そこで一端きり、キラは入り口の方を睨む様にして見つめたあと、声高らかに言い放った。 「行動開始!!!」 その一言で、それぞれ自分の成すべき事をするために動き始めた。 |