■第5章〜運命の下〜■ 呆然と、今まで2人の少女がいた場所を眺めていたとき艦内に警報が鳴り響いた。 敵襲かと一瞬思ったが、おそらくラクスたちだろうと考えた。大方スカイグラスパーあたりでこの艦から脱出するつもりなのだろう。 マリューたちは顔を見合わせすぐさまブリッジッへと駆けて行った。 サイのみ未だ座り込んで放心しているフレイに視線を向けたが、頭を振って3人の後を追いかけた。もう自分には関係のないことだと無理やり割り切って。 そんな彼らを影で見ていたキラは面白そうに笑みを浮かべフレイに気づかれぬよう牢を後にした。 誰にもばれないようにラクスの脱出を手伝うために。 「状況を説明して頂戴」 「艦長!!」 「たった今カガリさんが乗っているスカイグラスパーが緊急発進しました」 「ハッチは開かないはずでしょう!?」 「それが・・・・こちらのメインコンピューターが何者かにのっとられていて・・・」 「ハッキング・・・・でしょうか?」 「そうとしか考えられないわね。バジルール中尉」 「何でしょう?」 「撃破させることなく落とすこと・・・・・出来ますか?」 「我々の腕を甘く見ないでください」 「そう、それではお願いします」 信頼した笑みをナタルに向け、すぐさまブリッジクルー全員に響き渡る声でマリューは言った。 「第1級戦闘配備。目標はスカイグラスパー2号機!!ただし撃破させずに捕獲することとします」 「「「「「はい」」」」」 みなの応答を聞き届け、マリューは画面いっぱいに広がる夜の海、そしてその先に飛んでいくスカイグラスパーを見つめた。 彼女が先ほど言っていたことが本当のことだとしたら、きっと間違いなくザフトのものたちが攻撃を仕掛けてくる。そうなればこちらとしては追撃することは出来なかった。 こんな所で落とされるわけにはいかないのだから。 決意のこもった瞳で画面を見ていたそのとき、悪い予感は的中することとなった。 「艦長、敵影発見!!・・・・・モビルスーツ・・・イージスにバスターです!!」 「やっぱり・・・・・フラガ少佐とヤマト少尉に出撃準備を急がせてください!!」 「え・・・か、艦長!!キラが・・・キラがストライクのところに来ていません!!」 「何ですって!?」 目の前が真っ暗になると言うことはこういう事をさすのだろうと、冷静に考える自分がいることに驚きながらも焦りは募るばかりだった。 いくらフラガが凄手のパイロットといえどあのモビルスーツ2機をたった1機で対峙することは無謀すぎた。 「・・・・・・・最大速度で振り切ってください。兎に角今は・・・・・」 「分かりました」 「バジルール中尉」 「分かっています。ここで落とされるわけにはいかないことぐらい・・・」 そんな時、格納庫のほうから通信が入る。 もちろんフラガだという事は分かりきっていた。 『おい、早く発信許可を出せ!!』 「我々は撤退します」 『何だと!?俺は出れるぞ!!』 「それくらい分かっています。しかし、今優先するべきことはアラスカに一刻も早くたどり着くことです。」 『しかし!!』 「今はこうするしか方法がないんです!!・・・・・・・これは・・・」 何かに耐えるようにそこできると、マリューは全身の震えを隠すことなく続けた。 「艦長命令です」 『・・・・・・分かった』 その場に重い空気広がる中見事にアークエンジェルから脱出したラクスとカガリを乗せたスカイグラスパーはイージスとバスターに守られるようにしてザフトの艦に収納されていった。 マリューたちは彼らが追ってこないことに疑問を持つ余裕もなく最大船速で逃げる事を優先した。 ■□■ バスターとイージス、そして地球軍の戦闘機が収容されていくのを見つめながらニコルは複雑な面持ちを隠すことが出来なかった。 先ほど、ラクスからの通信を受け取ったときのアスランの様子に違和感があったから。 つい数時間前、夢見が悪く泣いていた彼は今までどおり不器用な人間だったはずなのに。先ほど見た彼は今まで通りの筈なのだが、どこか違っていた。 矛盾しているよなぁとぼやきながらも割り切ることの出来ない感情がもどかしかった。 「おい、ニコル」 「・・・なんですか、イザーク」 「アスランなんだが・・・・」 「アスランがどうかしましたか?」 「何か・・・・変じゃなかったか?いや、俺の気のせいかもしれないがな、何か・・・」 「イザークもそう思いましたか?」 ニコルは意外そうにイザークを見た。イザークはニコルの視線にばつの悪そうな表情をするものの否定はしなかった。何だかんだいがみ合う2人だが(イザークが一方的に絡んでいるだけとも言うが)意外にお互いの事を見ている。似たもの通しとはこういう2人を言うんだろうな、と影でこっそり思っているほど2人がタッグを組むと実感してしまう。 「夕べ、あいつが泣いていたときは、あれはあれで驚いたが、さっきラクス嬢から通信が入ったときに見たあいつは、まるで・・・」 「「別人だった」」 2人の声は重なり、自然と互いは顔を見合わせていた。 きっと同じ事をディアッカも感じているだろう。もちろんクルーゼも。 一体何があったというのだろうか、あそこまでがらりと雰囲気が変わるのもいろいろな意味で怖かった。 そう、今のアスランは一言で形容するならば「怖い」のだ。 何がどう、とはうまく説明できないが、彼の発する空気とでも言うのか、兎に角雰囲気が更に冷たくなっているのだ。 「何か・・・・ラクス嬢がここに来たときも同じ事を感じたんですよね・・・」 「お前もか・・・?」 「イザークもでしたか。直接本人にお会いしたのはあれで2度目だったんですが、前会った時と何かが違ったんです」 「俺はブラウン管の中でしか見たことがないが・・・・何かを秘めているような気がした」 「なんだか・・・嫌な予感がします」 「そうだな。敢えて言うならば、今は嵐が起こる前の静けさ・・・だな」 「ですね・・・あ、着艦完了したみたいですよ」 「行くか」 「はい」 2人はそれぞれの機体から降りてきた彼らの姿を視界に入れると、そちらに行くため、部屋を後にした。 嵐の前の静けさ・・・・・ それは、あながち外れているわけでもなかった。 「アスラン!!ディアッカ!!」 「ああ、ニコルか」 声をかけると、ディアッカが手を上げてこちらを見た。 アスランは一瞬にこちらのほうに視線を送ったものの、すぐさまスカイグラスパーの方へと足を運んだ。乗っているのはラクスだからそれもしょうがないと思いながらも、やはり違和感は拭えなかった。 「やっぱりおかしいな・・・」 「だな。近づくことすら出来ねえよ、今のあいつは」 「何でこんな風に感じるんでしょうね・・・・・アスランは変わっていないはずなのに」 やはり共通に感じているアスランに対する違和感。 みな、いまいち晴れない顔つきでアスランに続くようにしてスカイグラスパーへと近づいた。そこではアスランの手を借りて、ラクスと、見たこともない少女が降りているところだった。 「ありがとうございます、アスラン」 「いえ・・・・・おい、いい加減降りろ」 「五月蝿い。一応私は人質だし、ナチュラルということになっているし・・・」 「そんなこと気にしていたら何も出来ませんわよ。一応貴女には肩書きがあるのですから危険はありませんわ」 「それにコーディネイターもそれほど馬鹿ではない」 もしこの会話を聞いたものがいたら自分の耳を疑うだろうと思えるような内容を平気な顔で交わしながらカガリはアスランの手を取り飛び降りるようにして地面へと降りた。 そのとき、バランスを崩しアスランの腕の中にまるで抱きつくようにして飛び込んでしまった。 実際は、カガリの腕を引っ張り、半ば無理やり自分の腕に納めたのだが。 背後から見ていたにこるたち3人にはバランスを崩したようにしか見えなかったようだ。 「わ、悪い!!」 心なしか顔が赤いような気もしないでもなかったが、カガリはすぐさまアスランの腕から逃れるとまだ耳に残る彼の声で居たたまれなくなった。 彼の記憶が戻っているだろうと言うことはキラが覚醒したときに大方検討が付いていた。 キラとアスラン 2人はこの復讐劇で欠かせない重要な2人だ。 キラとラクス、カガリアスランのような繋がりではない、別の繋がりを持っている。 だからこそ、彼らは出会うべくして幼い日々を一緒に過ごしたのだろう。敵対関係になったことも、もしかしたらよかったことなのかもしれない。なんせ、カガリだけナチュラルと言う判定をもらってしまったのだから。 「アスラン、やはり思い出していましたか」 「まあ。キラが目覚めたあたりでしょうね。つい数時間前に」 「見事ですわ。でも、キラは私のですからね」 「・・・・・・・当たり前だ。俺にはカガリがいるし・・・」 「な、何を言ってるんだ!!この馬鹿!!」 「何って・・・・本当のことだろう?」 顔を覗き込むようにして、意地の悪い笑みを浮かべたまま近づいてくるアスランから退きつつ、カガリはキラに脳内で話しかけていた。しかし、返ってくる声はない。 「きっと、時が来るまで今までどおりの仮面を被るんでしょう」 「だな。そうしないとあの変化は怖い」 心底思っていることらしく顔を歪ませながら言うカガリがつぼにはまったのか、アスランのラクスも笑い出してしまった。 笑われたカガリは、先ほども笑われたばかりだったので同じ轍は踏まないよう敢えてなんでもないような顔をして怒鳴りたいのを堪えていた。 |