■第6章〜偽りの仮面〜■ 浮遊感が体を包む。 あたりは真っ暗で、何もない。 ただ底に浮かび、漂い続けるキラは、体にまとわりつく黒いものに苦しみながら、遠い過去へと想いを、意識を馳せていた。 争いを好むはずない。 同じ人だというのに、争いを起こそうとするものは何と愚かな事だろう 自分ではなく、他の者に手を染めさせるなんて 何と傲慢で、愚かな者たちなのだろう。 様々な感情が交差する中、キラの心は平和だったあの頃に飛ぶ。 自分たちはまだ生まれて間もなかったが、記憶などあるはずなかったが、想いは残っている。 母の優しいぬくもりも、父の暖かな眼差しも。 皆から向けられた悪意のない、ただ思いやる心も。 全てを壊したのは、自分たちを造りだし、従わないと知ったら玩具の様に存在を否定したあいつら。 自分たちの力に恐れをなしたあいつら。 どうして どうして・・・・・ どうして僕らがこんな目にあわなくてはいけない? 僕らが何をしたという? ただ平和を願っただけ。 争いを否定しただけ。 それのどこが悪い・・・・ それのどこが僕たちを否定する、 存在すらも抹消する理由となる・・・・? 「いつか、きっと分かってくれる・・・・同じ人間ですもの」 誰かが言っていた、信じる心。 でも、その言葉を否定するようにあいつらは囁く。 『争うために作られた化け物』 「同じ人間です。憎んでは駄目、嘆いては駄目、きっと分かりあえるから・・・」 そう、何度も何度もくじけそうになる心を叱咤していた。 しかし、そんな努力も、あいつらは一笑して踏みにじった。 『化け物と分かり合うなんて真っ平ごめんだね』 『自然の摂理に反しているわ、あんな存在』 じゃあ、何故造ったの? 意思も示さず、ただ争いをしていればよかったの? どっちにしたって、化け物と言って、敬遠するではないか。 存在を否定して、言葉で、視線で、僕たちを蔑み傷つけるじゃないか・・・・ だから、僕たちは、誓ったんだ。 離れ離れになる前に、誓ったんだ。 いつか、彼らに、 今は”ナチュラル”と呼ばれる存在に 復讐する事を―――― ■□■ 画面に映る父親の顔を見ながら、アスランは何の感情もなく淡々と言葉をつづった。 向こうが驚き、驚愕の色を見せていることにもかまわず、ただ自分の目的を果たすために。 「・・・・・・・もう1度説明しろ、アスラン」 「・・・・ストライクのパイロットが次の戦闘でこちらに寝返ります。この間に滞在する許可を・・・・・いえ、ザフトに入隊する許可をいただきたい」 「ストライクのパイロットだと!?」 「何故こちらに願える!!あやつはナチュラルだろう」 「しかし優秀なことには変わりない・・・」 「だが、彼奴は何人もの同胞をその手にかけているんだぞ!?」 画面の向こう側の混乱がありありと分かった。 今まで数多くの同胞の命を奪い去った地球軍最後のモビルスーツ、通称ストライク。 そのパイロットがこちら側に、ザフト・・・いやコーディネイター側に寝返るなど、誰が信じられようか。 いや、信じようにもあまりにも突飛過ぎることだった。 白い悪魔――――― かの機体は、その鮮やかな動きと容赦のなさで、ザフトの、特に前線で戦っている者たちにそう囁かれていた。 幾度となくエリートと言われるクルーゼ隊のパイロットたちと剣を交え、互角に渡り合ってきた、そのパイロット。 その人物が、何故今更寝返りたいなどというのだろうか・・・・・。 当然すぐ浮かぶのは、地球軍の作戦。 彼はスパイとしてこちらに派遣されるのではないだろうか、と。 だが、そんな考えを見越したように、アスランは口を開いた。 「ストライクのパイロットであるキラ・ヤマトは、私の親友であり、コーディネイターです」 「何だと!?」 「なぜコーディネイターが地球軍に、ナチュラルに与している!!」 「そのものは裏切り者ではないのか!?」 口々に雑言をはきながらその場の混乱は更に広がりを増すばかりだった。 そう、地球軍に与するコーディネイター・・・・ それは、裏切りを表している。 そんな彼らの混乱を鎮めたのは、他でもないラクスだった。 先ほどからアスランの交わす会話を何の表情もなく聞いていた。 否定の言葉でも、弁護の言葉でもなく、ただ一言で。 「キラは、私やアスランと同じ存在です・・・・・」 それがどのような意味を秘めているか、息をのみながらこの会話を聞いていた者たちには分からなかったが、画面の向こう側にいるものたち全てはその意味を悟り、水をうったかのように静かになった。 特に、ラクスの父であるシーゲルとアスラン父であるパトリックは予想外の言葉に目を大きく開いて誰よりも驚いていた。 「・・・・それは、本当なのか・・・」 「私が虚偽の発言をするとお思いですか?」 「いや・・・・」 「全ては真実です。そして、彼に秘められたナチュラルへの憎しみも」 ラクスは、そういって純真無垢な微笑を惜しげもなく見せる。 アスランも続けるように言葉を紡ぎながら満面の笑みを浮かべた。 「キラ・ヤマトのザフトへの入隊の許可を」 |