■第6章〜偽りの仮面〜■ 憎々しげに呟かれたその言葉は、キラを信頼の置ける仲間と認知していた者たちに、多大なるショックと混乱を招いた。 何故キラはこんな事を言うのだろうか、どうして自分たちを攻撃するのだろうか。 答えはもう出ているはずなのに、誰も認めようとはしなかった。 いや、認めたくなかったのだ。 キラが裏切ったなどと、誰も信じたくなかったのだ。 「僕はナチュラルなんて大嫌いだよ」 『キラ・・・・・』 「ミリィ、君は僕を何だと思っているの?危なくなったらすぐ呼んで・・・僕だって大変なの分かてる?」 『オイ、キラ!』 「トール、自分で僕の親友だ、って豪語しときながら、アークエンジェルに乗艦して以来ほとんど話しかけなくなったよね」 『・・・・・・キラ、落ち着け』 「サイも、本当は僕のこと憎いんでしょ?大好きな彼女をとられて、それなのに他の女の子と仲良くしてる僕が」 『・・・・・・・』 「カズイなんて戦争というものに関わり始めたらすぐこれだ。友達が言って呆れるよ」 キラの言葉に何も言い返せず、4人はただ下を俯き怒りや悲しみや遣る瀬無さをやり過ごすだけで精一杯だった。 ミリアリアも、トールも、サイも、カズイも、皆戦争に関わってから、キラとの能力の差を見せ付けられてから、無意識のうちにキラを避けるようになっていた。 無意識のうちに、コーディネイターだから大丈夫だと、何でも出来るとそう思うようになっていた。 ヘリオポリスにいたときには感じなかった劣等感と、恐怖が一気に襲ってきていた。 押し黙る4人の少年少女たちを見つめながら、マリューは画面の中で小悪魔のように笑うキラを見据えた。表情は笑っているが、瞳は冴え冴えとしていて、何を考えているのか全く読めなかった。 しかし、このままではキラの手によって沈められる可能性があった。 すでにキラはこの艦の仲間ではないのだろう。 ナチュラルが憎い、と荒れだけ堂々と言っていたのだから、今更撤回されはしないだろう。 「あー、今のうちに逃げようなんて思わないで下さいね、艦長」 『・・・・・・ふっ、お見通しって言うやつね』 自嘲気味に、しかし毅然と微笑みながら、マリューは内心焦っていた。早く策を考えなければならないのだから。 ここで沈められるわけにはいかない、ここで生命を終わらせるわけにはいかないのだから。 息苦しいほどの、思い沈黙が彼らを包む。 皆ただただ静かにそこに在るだけで、動くことも話すこともしない。時間が止まってしまったように互いを見ていた。 「キラ!!!!!」 大声で叫びながらブリッジにフレイが現れた。 その表情は鬼気迫るものだった。 キラは、フレイが何を言いたいのかよく分かっていた。ブリッジに来させるようわざと彼女を煽り、閉じられていた扉を開け放ったまま出てきたのだから。 「やぁ、フレイ」 『キラ・・・・・・裏切るなんて許さないわよ』 「裏切る?冗談は休み休みに言ってよ」 『何ですって!!』 「裏切るも何も、さっきも言ったように、僕は愚かなナチュラルが大嫌いなんだよ!!」 『でもあなたは私を守ると、そう言ったわ!』 「人は誰も過ちを犯す。犯さない方がおかしいよ」 なおも言い募ろうとするフレイにキラは更に冷たくなる己の心を感じた。そして、それと同時に体の疲労がピークを迎え、そろそろ意識を保てなくなるということも悟った。 準備のためとはいえ、流石に体に負担をかけすぎのようだった。それ以前に、まだ本調子ではないのだ。無理をするわけにはいかなかった。ここで無理をすれば、カガリにまで迷惑がいってしまうから。 「そろそろお仕舞いにしましょうか。茶番劇はもう終わりです」 冷たさと、誰をも引き寄せぬ笑顔でキラはそう告げると、懐から1枚のフロッピーディスクを取り出した。 何の変哲もないそのディスク。されど、何かがある事は言うまでもなく分かった。 「これはアークエンジェルのデータを全て入れたものです。この意味分かりますよね?」 『・・・・ハッキング、したの?』 「ええ、しました。フレイを拘束してくれたお陰で予想よりも遥かに早く終わりましたよ」 『っ・・・・』 「物分りがよくて感謝しますよ」 『・・・・・望みは何?」 「降伏してください。今すぐに。あなた方には全てを見てもらいます」 キラが告げたのは、半ば予想していたことだった。 ここまで言葉を交わしてきたのに、沈めるということはもうしないだろうと思っていた。 沈めるならば、ネタばらしをしたその直後に驚く暇も与えず沈めているだろうから・・・・ ブリッジにいる面々が、皆マリューへと視線をよこす。 全ての決定権は、艦長であるマリューにあり、他のクルーたちは彼女の決定に従わねばならなかった。いや、命令だからと言って従うのではなく、マリューがマリューであるから従うのであった。 感じる視線の一つ一つがそう伝えてきた。 マリューは、彼らに感謝しつつ、軍人としては最も屈辱的な言葉を口にした。 「・・・降伏、します。地球軍戦闘艦アークエンジェルは今を持って降伏します」 静かに、そう告げるマリュー。 他のクルーたちも、どこかほっとした表情で肩の力を抜いた。まだまだ混乱とショックの影は薄れてはいないものの、それでも戦闘に参加しなくてもよくなるということは彼らの心を少し軽くした。 だが、どこにでも例外はいる。 そして、この場合それはフレイが当てはまるものだった。 「何で!!!!コーディネイターなんかに降伏するのよ!!」 「アルスター二等兵、これは艦長の決定だ」 「そんなの関係ない!!自然の摂理に反した奴らなんかに何で屈しなきゃいけないの?パパを殺したあいつらに・・・」 「フレイ・・・」 「化け物なんかに何で・・・・私からパパを奪ったあいつらに!!!!」 憎しみと悲しみを混ぜ合わせたその叫びを止めようとするものはいなかった。 彼女の言っていることは、皆誰もが一度は思ったことだから、否定することも、反論することも出来なかった。 しかし。 少なからずフレイの言葉はコーディネイターである者たちの逆鱗に触れた。 失念していたかもしれないが、今回線は全周波でつながっておりキラやアスランだけでなく、イザークやニコル、ディアッカたちにも伝わるものだった。 そして、フレイの言葉に一番反応を見せ、怒りを露にしたのは、気性の激しいイザークでもなく、一見ふざけているがナチュラルを完全に憎んでいるディアッカでもなく、戦いに迷いを抱くニコルでもなかった。 「じゃぁ・・・・誰がコーディネイターを生み出したの?最初に自然の摂理を犯したのは、ナチュラルだよ?」 「誰もコーディネイターかナチュラルかなんて選べない。それなのにコーディネイターはコーディネイターだということだけでナチュラルから酷い仕打ちを受ける」 「はじめに仕掛けてきたのはナチュラルだ」 「まるで玩具のように、気に入らなかったらすぐ棄てる。人の命をなんだと思っている!!」 「コーディネイターが化け物?・・・・だったら、ナチュラルは更に醜い化け物だ」 「特出した能力は、ただ切欠に過ぎない。全てはその人物の努力次第」 「開花するのがただ単に早いだけのこと。それだけでお前のような醜い心の持ち主に卑下する謂れはない!!!!」 「「コーディネイターが人間じゃないと、誰が決めた!!!!」」 「「戦争の道具としか考えない、自分の利益しか考えないお前たちに何が分かる!!」」 「「先に奪ったのは、多く者命を奪った略奪者は、お前たちだ!!!!」」 一言一言に込められた思いは、強く、悲しく、コーディネイターの心を代弁するかの様に激しかった。 そう、はじめに仕掛けたのは、ナチュラルだった。 嬉々としてコーディネイターの子供をたくさん生みだした。 その能力を恐れて排除し始めた。 多くの同胞を、無抵抗の者たちを、有無を言わさず消し去ったのはナチュラルだった。 その怒りを、悲しみを誰も忘れることはしない、出来やしなかった。 『そろそろ行くぞ、到着したようだし』 「そうだね。・・・・・ねえアスラン」 『限界来てるなら寝ろ。運んでやるから』 「頼む・・・・・この借りはいつか返すよ」 『期待しないで待っておこう』 アスランのぶっきらぼうな物言いに苦笑を覚えながらも、キラは眠りに落ちた。体の疲労も、心の疲労もピークを過ぎていた。アークエンジェルのデータをハッキングする際、2、3日不眠不休だったのだ。昼は自分の意識を潜在意識下に落とし、何も知らないキラで日々を過ごした。夜になると、ひたすらパソコンの前でデータと睨めっこをしていた。 いくらその能力が高いといえど、無理をすれば体を壊すし、死につながる事もあるのだ。 アスランはフェイズシフトダウンしたキラの機体を抱えながら、自分の艦へと戻っていった。 残されたニコルたちは、なんとも言えない雰囲気の中同じように時間へと戻っていった 「キラ!!」 「アスラン!!」 戻るなりいきなりラクスとカガリが駆けて来た。 アスランの腕には、眠りに落ちたキラがいる。アスランの服を掴み、丸まるように縮こまって眠るキラの姿があった。 ラクスは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに平静を装いアスランを真っ直ぐ見た。 「キラは・・・?」 「極度の疲労と睡眠不足。これ以上は無理だったようだ」 「そう、ですか・・・・医療班に連れて行ったほうがよろしいかしら?」 「いや、構わないだろう。それよりカガリ、お前は大丈夫なのか?」 話題を振られたカガリは、きょとんとした後、安心させるように微笑んだ。 「大丈夫だ。キラが私にまでいかないよう調整したらしいから」 「そうか。兎に角・・・・俺の部屋に運ぶ」 「そうですわね。その後は足つきの皆さんに挨拶に行きましょうか?」 「そうだな」 3人は(実際は4人だが)そう言葉を交わしながら格納庫から消えていった。 部屋にキラを寝かせてきた後、アスランたちは捕虜となったアークエンジェルのクルーの面々に会いに行った。 誰もがラクスとカガリの姿を認め、裏切りを感じたような、安心感を覚えたような、そんな複雑な表情をした。 ラクスもカガリもそんな視線を受けても何も感じていないような表情で、微笑んでそこに立っていた。 「こんにちは、その節はどうもお世話になりました」 「・・・・・」 「だんまりされても困るのですけれど・・・ねぇ、カガリ?」 「そうさせているのはラクスの行動の所為だと思うが?」 「まぁ、私の所為だと言いたいんですの?」 「事実を言ったまでだ」 口喧嘩というのとは違う言い合いをしながら、だが2人は誰の目から見ても十分気を許したもの同士だということが分かった。 「あんたも・・・・あんたも裏切り者だったの!?」 「おい、フレイ!!」 フレイの憎しみの篭った、地を這うような声がした。その瞳は涙に濡れ、やつれているようにもうかがえた。 カガリはフレイに視線を向け、嘲笑った。 そして。 「裏切っただなんて不本意な事を言わないで貰おうか?」 「っ!?・・・裏切ったのは事実じゃない!!そのコーディネイターを逃がすの、手助けしたんでしょ!?」 「ああ、私とラクスは、仲間だからな」 「やっぱり・・・・・・この裏切り者!!!!!」 自分に、鬼気迫る表情で向かって走り寄ってくるフレイを見ながら、カガリは逃げることもせずまるでかかって来いとでも言わんばかりの表情で立っていた。 フレイの拳が上に振り上げられ、カガリに振り落とされる。 しかし、カガリは横に一歩ずれただけで、フレイを軽く流した。 避けられたフレイは勢い余って地面へとダイブした。思い切り打ったらしく、なかなか起き上がれないようだ。 下を見下ろしながらカガリは今まで見せたこともない表情でフレイに向かって言い放った。 「愚かなナチュラル・・・・死にたいと思うほどの苦しみを与えてやる」 「簡単に死なせはしない。苦しみの中で生きればいい・・・」 フレイの髪を半ば無理やりに掴み、顔を自分に向けさせながら睨みつけた。 「カガリ・・・・さん・・・?」 「私は、私たちは、ナチュラルを心から憎む」 静かに告げた後、カガリはアスランの隣に立った。ラクスは天使のような微笑で、それでは、と言い踵を返してその場を後にした。残された面々は呆然と立ち尽くしたまま3人の後姿を見送った。 簡単に死なせはしない 僕たちが味わった苦しみや、悲しみや、痛みを 味あわせてやる 死にたいと思うほどの 苦しみや、悲しみや、痛みを お前たちナチュラルに、 全ての愚かなる者たちに・・・・・
後書き(興味のある方は反転してください) あーあやっちゃった。 ごめんなさい。最後の最後で崩れました。しかもまたキラ眠っちゃってるしね。 この章はこれで終わります。相河が書きたかったのは6章の(4)だったので、 (5)はおまけみたいなものと考えていただければ・・・・(マテこら 次の章は・・・・イザークやニコルたちとの初めての会話とかが書けるのではないかと。 お付き合いしてくだされば幸いです。 では、読んでくださってありがとうございましたvvv BACK HOME NEXT |