■第7章〜真実と虚偽の中で〜■






イザークを迎えにニコルとディアッカが訓練室を出た頃、アスランの自室ではようやくキラが深い眠りから目を覚ましていた。
まだ寝ぼけているようで、何をするにも反応が遅いキラを甲斐甲斐しく世話しながらアスランはまだ何も知らなかった幼き日を思い出していた。
何をするにもいつも一緒で、でも人一倍の甘えたさんで、提出期限を平気で破るわ、寝起きは最悪だわ、客観的に見ると悪い思い出のほうが多いのかもしれないが、それでもアスランにとっては1番色鮮やかな時期だった。

「ったく・・・いつまでも変わらないんだから・・・」

下手をすればまた眠りこけてしまいそうなキラを無理やり立たせて手洗い場まで連れて行く。
顔を洗うように指示すると、アスランはクローゼットにしまっておいたキラ用のザフトの軍服を取り出した。
ラクスと共に評議会の父たちを説得して認めさせた、キラが着るダークレッドのその軍服を。

「アスラン・・・・」
「おはよ、キラ。目はもう覚めた?」
「何とか・・・・。頼むからさっきのような痴態、ラクスには」
「痴態って・・・・ラクスだったら嬉々としてキラの身の回りの世話を手伝うと思うが?」
「・・・・・それもそうだね」

どこか諦めきったようにそういうキラに笑みを深くしながらアスランは取り出した服を投げてよこした。

「それに着替えて」
「・・・・もう認めさせたの?」
「俺とラクスにかかれば朝飯前だよ」
「あ、そ。それは凄いね〜」
「棒読みだぞ。てか、感謝しろよな!」
「してるよ!」

失敬だと言わんばかりの表情でそういうと、キラは未だに身に纏っている連合軍の下士官の青い制服を脱ぎ捨てると新品だとうかがえるダークレッドの制服を身に纏い始めた。

アスランは、キラが脱ぎ散らかした服を片端から拾い、そのまま燃えるゴミ用のゴミ箱に放り込んだ。

「・・・・アスラン、これ・・・」

少し機嫌の悪そうな声で振り返ると、首の辺りで悪戦苦闘しているキラが睨むようにしてこちらを見ていた。どうやらこれをきちんと直せ、といっているらしい。
苦笑をもらしながらもキラに近づくと悪戦苦闘している部分に手をかけ何の苦労もなく直してやった。

「最初はここ難しいからな」
「・・・・なんかこうアスランがさらりとやると対抗心が芽生えると言いますか兎に角ムカつく」
「昔から日常茶飯事だったと思うぞ」
「昔の僕は、僕であって僕じゃない!!!」
「そういう事にしておくか」
「アスラン!!!」
「しょうがないだろう。散々人に課題の手伝いさせたのは事実なんだし」
「そ、それはそうだけど・・・・・」

唸るキラを尻目に、アスランは勝ち誇った笑みを浮かべた。そして、そのまま部屋を出ようとする。

「どこ行くの?」
「カガリたちを迎えに。ついでにお前のお披露目するから」
「お披露目って・・・・僕はどこかの王子ですか」
「まぁ・・・似たようなものじゃないか?」

それもそうか、と実にキラらしい反応を見せると、アスランの横に並び小悪魔的な笑みを浮かべた。

「アスランもだけどね」
「はいはい」
「なんだよ、その適当な反応は!!」
「・・・・・キラ、そろそろ子供返りはやめとけよ。ラクスに笑われるぞ、カガリにもだけど」
「・・・・・・分かった。でも、結構楽しいんだよ!」
「俺が疲れるから止めろ」
「いいじゃん」
「よくない」

どこまでも平行線をたどる口論をしながら、2人はアスランの自室を後にし、ラクスとカガリが向かったであろう訓練室へと向かった。




「あれ、アスラン!!」
「ああ、ニコルにディアッカじゃないか・・・」
「お、やっと目覚めたんだな、そちらの眠り姫は」
「眠り姫って・・・・ディアッカ、失礼でしょ!!!」

片目を閉じそうキラを形容すると、ニコルが呆れたようにディアッカの頭を何の手加減もなくグーで殴った。
殴られたディアッカは、恨みがましそうに殴られた箇所を押さえながらニコルを睨むものの、ニコルはさして気にした風もなく、キラたちに意識を向けている。

「初めまして。ニコル・アマルフィです」
「初めまして。キラ・ヤマトです」
「すいません、ディアッカが・・・」
「いえいえ、慣れっこですから。ただ・・・・・1人のときは気をつけておいて下さいね、ディアッカさん」

不敵な笑みを浮かべディアッカを見つめると、キラはすぐさま友好的な笑みに切り替えニコルとの話に花を咲かせた。

「ニコルさんは、Gのパイロットですよね?」
「はい、そうです。あ、ニコルでいいですよ、キラさん」
「そう?じゃ、遠慮なく。機体はどれ?」
「ブリッツです。アスランは知ってるでしょうけどイージスで、そこのディアッカはバスターです。今はラクス嬢たちに連れて行かれていませんけど、イザークが残りのデュエルです」
「ありがとう。あ、ラクスたち知らない?」
「僕たちも今探してたところなんです。イザーク迎えに行こうかと思っていたところで・・・」

苦笑を浮かべるニコルに、内心アスランは驚いていた。
いつもは腰抜け、臆病者、など口汚く罵られているというのに、心配できるほど大きな器を持っているだなんてと。
しかし、次の一言で、その思いはがらりと崩れ去ってしまった。

「いつもいつも嫌な気分にさせられてますからね。たまには彼をからかってみるのも一興かと思いまして」
「へぇ・・・・ディアッカさんも?」
問われたディアッカは、少々びくつきながらも遠い目をした。

「まぁ、確かにイザークの癇癪で部屋をめちゃめちゃにされたとか色々とあったけど、ここで迎えに行くなり何なりしないと後が怖くてな」
「へぇ・・・」
「兎に角、ここで話していても埒が明かないんだから探しに行かないか?」

アスランが口を挟むと、キラをはじめ、皆それもそうだな、と言って動き始めようとした。

「そうだね。・・・・アスラン見当つく?」
「一応、な。でもお前もつくだろう?」

アスランの問いに、キラは何も答えずただ笑うだけだった。その意図を察したアスランは、あからさまにため息をつくと、貸し1つだからな、と呟き歩き始めた。

「あの、アスラン」
「こっちにいるはずだから。イザークのところに行くんだろ?」
「あ、はい」
「んじゃ、ついてきて。アスランならそこらの犬より鼻が利くし」

笑うキラに、アスランは不機嫌を隠すこともせず小突きながら言った。

「人を犬扱いするな!」
「事実だし」
「・・・・・さっきのこと、ラクスに言うぞ」
「・・・・・この僕を脅す気!?」
「言っていいんだな」
「・・・・・ごめんなさい、僕が悪かったです」

悔しそうなキラに対し、アスランは満足げな表情をしている。
傍から見ると、かなり滑稽な漫才を見ているようなものだが、ニコルもディアッカも笑うに笑えなかった。
2人が知己だと言うことは、キラがこの艦に着艦したときに知らされた。だからすでに驚くべきことではない。しかし、今目の前で漫才を繰り広げるアスランとキラは、いや、アスランは、今まで見ていた彼が嘘のように表情豊かな人物だった。普段ニコルたちの前にいた彼はほとんど笑わず真面目な人物だった。だが、今目の前にいるのは・・・・。

「アスラン、そう笑ってるのも今のうちだからね!」
「ふっ・・・キラ、お前は俺に2つほど貸しがあるのを忘れるなよ」
「それがどうした」
「いや、大切に取っておかないとな、貸し2つ」
「・・・・・好きにすれば」

これ以上やっても墓穴を掘るだけだということに気づいたキラは、大人しくアスランに続くだけとなった。
その後方にいるニコルとディアッカは、同じ気持ちを共有しているのが分かり、視線を絡ませると、また前を歩くアスラントキラに目を向けた。

「アスランって・・・・・あんな」
「あんな愉快な方でしたっけ?」
「ここにイザークがいなくてよかったよなぁ・・・」
「ですね。いたらいたでショックを受けそうですし」
「まぁ、すぐ知る所となるんだけどな」
「憂鬱ですね・・・・。ディアッカ、頑張ってください」
「何で俺が!!!」
「自然的流れですよ。・・・・・まぁ、僕に被害が来ることは必死ですけど、それでも最小限に抑えたいじゃないですか」

笑顔でさらりと聞き捨てならない事を言ってのけるニコルに、ディアッカはもう言いたいことも言えなくなり、がっくりと肩を落とすしか出来なかった。




「まぁ、キラ起きたんですか!?」

少女特有の声が響き、前方を見ると、満面の笑みを浮かべたラクスが嬉しそうにキラの方へと駆け寄ってきていた。その後ろでは、同じように安心した笑みを浮かべた金髪の少女――カガリもこちらに向かっている。

「心配かけてごめんね」
「いえ、当たり前のことですから、お気になさらずに」

そこだけ世界が違うように、キラとラクスに皆近づき難かった。
アスランとカガリをのぞいて。

「もう無茶はするなよ?」
「分かってるよ。もうアスランに借り作りたくないし」
「俺としてはいっこうに構わないぞ?」
「僕が嫌なの!・・・・カガリはもう連絡してあるの?」
「ああ、と言うか、2人の親が取ってくれたらしい。勿論キラの両親にも」
「そっか・・・・。流石だね」
「まぁな・・・。あっちはあっちで考えがあるんだろうけど」
「私たちには全く関係ありませんわ。そう、私たちには、ね」

そう言って4人は決意を秘めた笑みを浮かべると、後ろで居心地悪そうにしているニコルたちに視線を向けた。

「ニコルさま、ディアッカさま」
「あ、あの、えっと・・・・イザークは?」
「あのおかっぱなら、あそこだぞ?」

正論だけどおかっぱは酷いよな、と内心思いつつも口には出さず、ニコルはカガリの指差した方へと目を向けた。
そこには、訓練でもめったに疲れを表面に出さないイザークの、疲れ果て、壁に寄りかかるようにして立っている姿があった。
予想はしていたが、実際に目にするとぎょっとするもので、ニコルもディアッカも声を失った。

「何したんだ?」

呆れたように問うアスランに、ラクスもカガリもただ不敵な笑みを浮かべるだけで、何も語ろうとはしなかった。

「い、イザーク・・・大丈夫ですか?」
「・・・・・・・ああ」
「無理しない方がいいぞ。絶対」
「五月蝿い!!!」

ディアッカより差し伸べられた手を振り払い、イザークはおぼつかない足取りでキラの前まで来た。
そして。

「お前がストライクのパイロットか?」
「そうだけど?」
「何故・・・何故今更ザフトに」
「別に・・・大した意味はないよ」
「なんだと!!!」
「ただ、思い出しただけ」
「思い出す?」
「そう、思い出しただけだよ」

そういうと、まだ憮然とした表情のイザークを軽く押した。
少しの衝撃も耐えられないくらい疲れていたイザークは、無防備にもそのまま座り込んでしまう。
それを見たキラは、唇を吊り上げて一笑すると、何かを呟き去っていった。アスランと、ラクスと、カガリを引き連れて。
その場に残された3人は何も言うことが出来ずただ彼らの後姿を見送るだけだった。



―――さぁ、幕をあげようか。この劇の幕を―――



「よろしかったんですの?」
「何が?」
「顔見せ、だったのでしょう?彼らも駒になりますのに」
「いいんだよ。下手に付け入っても逆効果だし。それに」
「それに?」
「・・・・・面白いね、彼ら」
「まぁ、曲がりなりにも赤を着ているからな」
「そのうち分かるよ、ラクスも、カガリも」

キラの意味するところが分からず、2人の少女は困惑気味に首を傾げるものの、敢えて追求したりはしなかった。
4人は、また何と言うこともない事で談笑しながらアスランの自室へと向かった。




あとがき。(興味のある方は反転してください)



終わりました。閑話休題。
イザーク好きの方、ごめんなさい。相河もイザ好きなんですけどね。
でも1番遊びやすいんですよ!!(マテ
今回のキラはアスランにやられっぱなしだったような・・・。
これアスキラじゃないのに、ほんのりアスキラ入っていた様な気がする・・・方は、気の迷いだとマインドコントロールお願いします。(マテおら
次からはきちんと本編進みます。途中で投げ出すなんて事はしませんので。
お付き合いお願いいたします。m(_ _)m


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