■第8章〜闇に潜む心〜■






「何だい、イザーク・ジュール」
「勝負しろ」
「いやだ」
「何―!?いいからしろ!!」
「嫌なものは嫌だよ。勝負することで、僕には何の利益もない」
「損も無い」
「疲れる。余計な労働はしたくない」
「そんなのは、日々の自分の鍛練が足りない証拠だ」
「あんたとやると、あんたの叫び声とかで頭痛くなるし、負けたら素直にそれを認めないでどっか行くし、使った道具の後片付け、こっちなんだよ!!それに、会う時間が少なくなる。僕損してばっか。分る?」
「そんなものお前の勝手だ」
「はあああああ。ここまで馬鹿なのに、何でエリートやってるの?」
「ば、馬鹿だと!?この俺を馬鹿呼ばわりするのか!?」
「するね」
「貴様ぁぁぁ」




いつまでも続きそうな口論に、アスランは欠伸をかみ殺しながら眺めるだけ。下手に入っていらぬ火の粉は被りたくない。
だがしかし。このままだとまたしても勝負をする羽目になる。
そうすると、自分たちを待つ2人の少女を待たせることにもなるし、共にいる時間も減るわけで。


キラだけならば別に文句は言わない。自業自得だと切り捨てることも出来る。
如何せん、勝負が始まればそれが終わるまで自分も付き合わされる事は必至。
そうすると、アスランもカガリの傍にいる時間は極端に減るわけで。


「面倒だな」


声に出すと、更にやる気は失われる。
今も尚同志で幼馴染の相棒は、犬猿の仲といっても過言ではない同僚と低レベルな口論を続けている。




「またやってるんですね、あの2人」
「・・・ああ、ニコルか」
「誰だと思ったんです?ところで、あれ止めないんですか?」
「止められるか?」
「ご遠慮します。ディアッカに頼むって言うのはどうですか?」
「なるほど・・」
「待て待て待て!!俺はこれ以上あいつからの被害を受けたくはねー!」
「受けてるんですか?」
「ニコル、お前なぁ・・・。俺とイザークの部屋を見てよくそんなことが」


呆れたようにディアッカはニコルを見ながら、頭に手を当てた。
ここの所イザークがアスランにもキラにも負けているので、ストレスが溜まり、それをディアッカと共同で使っている部屋でぶちまけるものだから、ディアッカはなかなか睡眠がとれず寝不足のようだ。
だからといってどうするも何もないのだが。


「このままだと・・・・・始めますよ、あの2人」
「ああ・・・・・キラ!!」


イザークの所為で所々破壊工作がなされた部屋を思い出したのか、それともこれからも続くだろう今の生活の事を思ったのか。ディアッカは哀愁を漂わせた背中で、前方で口喧嘩をしている2人から目をそらした。
現実逃避に入るようだ。
そんなディアッカを放っておき、アスランはうんざりしたような表情で、キラの襟首を思い切り自分の方へと引いた。
勿論2人は互いに言いたい方題している最中で。


「何するのさ、アスラン!」
「何するって・・・・そろそろ俺は行きたいんですけど?」
「あ、そっか。ついついジュールの策略にはまる所だった」
「策略って・・・・イザーク、お前もいい加減に諦めろ」
「五月蝿いアスラン!!邪魔をするな!!」
「邪魔をしてるのはお前だ、お前。狙ったように出撃した後毎回毎回・・・・」


キラにあれだけ文句を言わせるだけあって、イザークはアスランにも同じだけ、いや、もしかしたらそれ以上の文句を言わせるほどの不興を買っていた。


自覚はないけれども。


アスランの我慢が限界になり、その糸が切れたまさにその時。
この場にはそぐわない物の声が響いた。




「帰りが遅いと思って来てみましたら・・・・」
「よもやこいつに捕まっていたとはな」




そこにいるのは、本来ならば部屋から出る事を許された人間ではない。
別に問題を犯したわけではなく、このような戦闘艦にいてはいけない、いるはずのない存在だから。


「ラクス」
「カガリ」
「とっくの昔に帰艦しているはずなのに、全然戻ってこないから心配しましたわ」
「毎回こうなのか?」
「ああ・・・・じゃなくて、どうして出てるんだよ」
「そんなの今更だろう?」
「いや、そうだけど」


あまり突飛な行動は、今は控えるべきだ


それは、4人で取り決めしたこと。
今の準備期間が一体どれほど大切なものか、4人は痛いほど理解していたから。


「とりあえず戻ろう?下手に騒ぎになったらそれこそ大変だから」
「でも、イザーク様はキラを放してくれそうではないみたいですわよ」
「・・・・・・まだいたの?」
「何だと!?いちゃ悪いのか?」
「「悪い」」
「〜〜〜〜っお前ら!!!」


見事に重なったキラとアスランの言葉は見事にイザークの逆鱗に触れたようで。
こうなったら勝負をして負かさない限り諦めてはくれないだろう。いつものことだが。


「勝負をしろ!!今日こそ決着をつけてやる!!」
「決着はもう何回もついてるよ!!」
「そんなの俺は認めん!」
「どうせ勝たない限り認めないつもりなんだろ!!」


遠巻きにしながら様子を伺っているニコルに、アスランは視線で合図を送るが、笑顔を返されてしまった。
巻き込むんじゃねーと、ありありと書かれた笑顔を。
隣に立つディアッカも意図的に目を逸らしている。やはりこれ以上被害を受けたくないようだ。


「いつまでもこうしていては埒が明きませんわね」
「そうだな。アスラン、キラ、勝負してやったらどうだ?」


いつまでも平行線をたどる3人にじれたラクスとカガリは、キラたちにとっては全くもってありがたい言葉をくれた。
瞬間的に嫌な顔、渋い顔になるのはもっともで。
しかし、ここで逆らったら後で何をされるのか分ったものじゃない。何かをされなくても1週間以上丸っきり無視、みたいなことは平気でやってのける。彼女たちならば。


「イザーク様、今度負けたらきちんと認めて、これ以後吹っかけないとお約束してくださいますよね」


天使の笑顔は、見るものが見ればただの悪魔の笑みに繋がるわけで。
今イザークはその笑みを間近で拝見している。
つい先日見た、その笑みを。その笑みにうまく隠れてはいるが、やはり滲み出ている禍々しいものを。


「分った、約束する」
「だ、そうです。キラ、アスラン、徹底的につぶしてください」
「うん。最後だもんね。本気出したげる」
「ああ、覚悟しろよ、イザーク」 「ふっ・・・・・言わせて置けば。覚悟するのはお前たちだ!!」


こうして、彼らは場所を移し、すでに何回となくやったチェスで勝負をつけることとなった。








数時間後―――――


「くっそおおおおおおお!!!!」


いつものように憤怒の表情で扉を乱暴に開け、部屋を走り去るイザークの姿があった。
予想していたことだったが、今日の荒れようは凄まじいものと思われた。
普段の勝負では、いつも僅差で勝負がつく。しかし、今日は最後ということもあり、本気で相手をしたものだから、いつも僅差の結果をたたき出しているだなんて信じられないくらいイザークに差をつけてキラもアスランも勝利してしまったのだ。


「約束を違えるだなんて・・・・・」
「男の風上にも置けんな」
「また・・・・お仕置きでもします?」
「考えておいてもいいだろうな。・・・・・さて、と。2人とも、行こう」


少しばかり疲労の色が見える2人にラクスとカガリはそれぞれ手を差し伸べると、ニコルやディアッカの存在にまるで気づいていないかのように完全に無視して部屋を後にした。
残された2人は、ラクスの行動に疑問を持つ、というよりも表面化で巻き起こるブリザードの一端を除き見てしまい、立ち尽くしてのことだが。








「また何か吹っかけてきたら、その時は絶対に言って下さいね」
「うん。ところで、今日は何をしてたの?」 「ちょっと情報収集ですわ」
「どこの軍事機密覘いたんだ?」
「えっと・・・・・連合、かな?」
「何で疑問系なんだよ」
「表向きは連合という事を隠していて、物的証拠が少ないから確信まで至ってないんだよ」


カガリは不機嫌に言い放つと、部屋に戻ったら見せてやるといいそれ以後黙り込んだ。
よほど、確信できなかったのが、悔しいと見える。


「とりあえず、その話は部屋に行ってからだね」
「ええ、一応トップシークレットな話題ですから」




4人はラクスとカガリの滞在する部屋へと向ける足を速めた。






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