■第8章〜闇に潜む心〜■






納得はいかなかったが、一応従軍している身であるキラとアスランは上の命令は絶対だ。それが軍というものである。例え、ザフトが職業軍人だったとしても。

本来ならばザフトという組織はもっと小規模で、戦力もそこまでなかった。それは、皆平和に暮らしたいと願うから。だが、その願いは自分達を生み出し、言う事を聞かないからといって殺戮を始めたナチュラルたち、地球連合軍の手によって思い切り踏みにじられてしまった。

今となってはそれがキラ達にとって絶好のチャンスなので、文句も何も言えたものではないが。

ラクスたちに至っては、この艦の客人である。いや、保護、という形のほうが正しいかもしれない。 兎に角、お世話になっている以上とんずらかますなんて事は出来ないのだ。



渋々4人は部屋を後にし、ブリッジへと向かった。

ラウ・ル・クルーゼの意図することが理解できなくて、予測できなくて、もやもやした思いを抱えたまま。





























「アスラン・ザラ並びにキラ・ヤマト、ラクス嬢、カガリ嬢をお連れしました」
「ご苦労」



到着した先には、ブリッジクルーは当然の事ながら、先ほどこてんぱんにのしたイザークやニコルにディアッカまで揃っていた。イザークは顔をあわせるのに抵抗があるらしく、あらぬほうを向いている。そんなイザークにニコルもディアッカも苦笑を禁じ得られないようだ。微妙に顔が引きつっている。




「隊長。何かあったのですか?」
「ああ、少しばかり問題がね。評議会からの通達だ」
「評議会、ですか?」
「ああ。アスランにキラ。ラクス嬢カガリ嬢をお連れして一度本国へ帰還するように、とのことだ」
「え!?」



評議会、と言う事はアスランの父親であるパトリックやラクスの父親であるシーゲルが属している。いや、束ねている。彼らの存在があるからこそプラントは平和だったのだ。開戦するまでは彼らが地球側と根気良く交渉していたのだから。




あのユニウスセブンの悲劇で、その努力も終わり武器を手に取るという選択をしたが。




しかし、何故いきなり本国に帰還しろなどという命令が下るのだろうか。

アスランとラクスの話によれば、キラの事はきちんと説得してあるので、何も咎められることはないらしい。というか、咎を受けそうになったらラクスが黙っていないだろう。

カガリはれっきとしたオーブのプリンセスだ。

いくらじゃじゃ馬で落ち着きが足りないとしても。

だから咎を受けたりということはない。一応ナチュラルと判断されているが、カガリだってコーディネイターだ。一応は。

それは彼らも重々承知だろう。




では、何故帰還せねばならないのだろうか。

考えては見るものの、閃くものはないし、心当たりもない。




「目的は私にも分らない。ただ4人で本国へ、とのことだ」
「それは・・・・父いえ国防委員長自らのお言葉ですか?」
「ああ、そうだよ」
「そうですか・・・・ありがとうございます」



父親の、パトリック自らの命令。


それが何を意図するのか、未だにつかめないが、悪いようにはならないだろうと、アスランは判断した。

まあ、悪い方向に転がったとしても、自分達ならば乗り切れるだけの力はある。

キラを見遣ると、彼もアスランを向いて小さく頷いた。どうやらキラも同じ事を考え、同じ結論に至ったようだ。




「では、我々はどうするのですか?」
「勿論、連合を叩く為に準備をする。流石に我が隊だけで軍基地を制圧できるとは思っていないからな」
「そうですね、でも具体的には?」
「ひとまずは現状待機、という選択肢しかないようだ。おって本国から通達が届く手はずになっている」
「分りました。万事に備えます」
「うむ。アスランたちは明日の朝にでも出発してくれ。すでに準備は出来ている」
「了解しました」
「では、彼女達を部屋に送り届けてまいります」
「ああ」



ザフト式の敬礼をし、アスランとキラはラクスとカガリと共にブリッジを後にした。

キラは当然のようにラクスをエスコートし、アスランもまた当然のようにカガリをエスコートしていた。

コレは、近頃しばしば見る光景ではあるが、未だに混乱をきたす。アスランの婚約者はカガリ嬢ではなくラクス嬢なのだ、と誰もが頭に過ぎるが誰もそれを口に出すものはいない。

何しろ、目の前で中睦まじいと信じてきたアスランとラクスの毒舌戦を目撃してしまったからだ。あの2人のあいだに甘いモノがあるとしたら逆にそれは恐ろしすぎる、と思ってしまうくらいだった。

しかし、やはり気になるのが人間の心理である。いくらコーディネイターといえど、気になるものは気になって仕方がないのだ。

そして、それはパイロット達にも言えた。




「前から思ってたんですけど・・・・やっぱり不思議ですよね」
「何が?」
「アスランがラクス嬢ではなくカガリ嬢をエスコートするのに対し、キラさんがラクス嬢をエスコートしていることです。普通あーいう光景見たら首捻るじゃないですか。でも、全然捻らないんですよ。逆にしっくりしちゃう始末で」
「十分首捻ってるけどな、お前。でも、確かにそうだな」



ニコルに同意するディアッカは、今はもういない4人が見えているかのように扉を見つめた。

ニコルの言うとおり、アスランがラクスと一緒に映っているところを見てもただ絵になるな、とかそんな感想しか浮かばなかった。しかし、カガリと一緒にいるアスランを見ると、どうにもしっくりして、ついつい2人で1セット、みたいな考え方になってしまっているのだ。キラとラクスにおいても然り。

しかも、それはアスランとキラのコンビネーションの良さからもいえることで。




「イザークもそう思わねーか?」
「・・・・・・別に」
「素直じゃないね〜。しかし、あいつら本当に何者なんだろうな」
「へ?」
「はあ?」
「んだよ、そのリアクション。俺傷付くぜ?」
「ご勝手にどうぞ」
「別に俺には関係のないことだ」
「うわ・・・・」



イザークとニコルから浴びせられる言葉は確実にディアッカに突き刺さった。

相当なダメージを被ったディアッカは、さめざめと涙を流した。




「何者も何も、4人は・・・・」
「本当に俺達が見ているだけの人物なのかなーって。偶に考えたりしね?」
「しないぞ」
「あ、そう。んじゃ、俺の世迷いごとってことで」
「分りました」
「・・・・・いいだろう」







残された彼らの会話を、キラ達が知るはずもなく。

近い未来、このディアッカの言葉がその場にいた者たち全てに甦るのは、まだ誰も知らない。











そして、翌日となり、4人は用意されたシャトルで本国へと戻っていった。

何が起こっているのか、また起こるのか。

微妙に隠しきれない不安はほとんどの者達の心に渦巻いていた。






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