■第9章〜全てが終わるとき〜■






夕食も終わり、カリダは食器の片付けに、残りの3人はテレビに集中していた。

最初はアスランも片付けに加勢しようとするが、カリダにやんわりと断られてしまったので、テレビを見ているのだ。

キラに至っては、手伝うという意思もなく、最初から父の隣に座ってテレビを見ていた。

テレビ画面映るのは,今の世界情勢。

現在外で行われている戦争の現状だった。

食い入るようにその現状を見つめながら、キラとアスランは急に自分たちの置かれている現状を思い出す。



カリダとハルマはきっと知らない。

自分たちがこの戦争に加担していることを。

この戦争に乗じて、成し遂げようとしていることを。



「全く・・・・いつになったらこんなくだらない戦争は終わるんだか」
「・・・・・・・・そう、だね」
「同じ人間同士、争うなんて間違ってる」
「・・・・・・・・そう、ですね」


憤慨したように言い捨てると、ハルマはチャンネルをコメディー番組へと変えた。

画面の中でお笑いコンビがぼけと突っ込みの応酬を繰り返している。



ここは本当に、平和だ。

再度2人は認識した。

そして。

この地を守りたいとも、思った。

























「3人とも、食後のフルーツはいかが?」


片づけを終えたらしいカリダが、手に巨峰を持った皿を持って3人の元へと来た。



「お、美味そうだな」
「そうでしょう?」
「2人とも、食べようか」


笑顔のカリダとハルマは、座ったままのキラとアスランに手招きをする。

2人は、顔を見合わせ、頷くと、徐に立ち上がり2人の傍へと行く。



そして



「父さん、母さん、話が、あります」


ここへ来た本来の目的を遂行した。

忘れてはならない、忘れることなど出来ない、この空間と。



決別する為に。









「なんだい、そんなに改まって」
「これを食べた後じゃ、駄目なのかしら?」


本能で、分かっているのだろう。

2人は、何もわからないような顔をして、キラとアスランに強請る。

そんな話まだいいじゃないか、あとからでも出来るじゃないか、と。

声にせず、ただ瞳だけで訴える。



キラ達が、それを口にしてしまえば、それが最後だとわかっているから。



しかし。

だからと言って先延ばしにしてはいつ言えるかわからなくなってしまう。

この空間を手放したくなくなってしまう。

そんな感情は、自分たちには不要なのだ。

だから。



「駄目だよ、父さん、母さん」
「今言わないと、きっと言えなくなることなんです」
「キラ・・・アスラン君・・・」


なんとも言えない辛そうな表情で、カリダは2人を見つめた。

ハルマは、厳しい表情を貼り付け、大きくため息をついた。そして、キラとアスランに視線を向ける。



「君達が来ていると聞いて、予想はしていたんだ」


この家に来る目的など、彼らには1つしかない。けれど、それを認めたくなくて、必死で誤魔化していた。

ハルマは、先程食事をした机に座ると、2人に座るよう促した。

カリダはハルマが座ったすぐ後に、彼の隣に腰をおろしている。キラとアスランは、異議もないので促されるまま向かい側に座った。



「アスラン君、君はもうパトリックたちには・・・」
「ええ、けじめはつけました。母にも」
「だから、今度は僕の番。僕もレノア小母さまとのけじめはつけたから」
「そう・・・・」


沈黙が広がる。重く、なんとも言いがたい沈黙が。

それを破ったのは、カリダだった。

淡い笑みを浮かべ、しかしその瞳には悲哀が浮かんでいる。



「付けなさい、あなたたちの言うけじめを」
「母さん・・・・・」
「そのために、2人はここに来たのでしょう?じゃあ、ちゃんと目的を果たさなきゃ」
「おばさん・・・・」


静かだった。時計が秒針を刻む音が妙に大きく聞こえて。心臓を脈打つ鼓動の音が聞こえているのではないかと思うくらいに。

ただただ静かだった。

足の上においていた手をぎゅっと握り締め、キラは真っ直ぐと両親に視線を向ける。

彼らの息子として育った16年間、1度も見せたことのない雰囲気をまとって。



「僕は・・・・・2人の、本当の子供では、ない・・・・」
「ええ、そうよ。確かにあなたは私たちの血の繋がった子供ではない」
「16年前、金色の髪の女の子と一緒にカプセルに入っていたのを、私たちとウズミ様が見つけたの」








あの日の光景は今でも忘れられない。

声に導かれるまま、森を抜け、国の代表であるウズミと合流した。そしてその直後。

赤ん坊の泣き声が漏れるカプセルを発見したのだ。

お互いを守るように、手を繋ぎあって。

警戒するようにこちらを大きな目で見つめる亜麻色の髪の赤ん坊。

大粒の涙を流し、怖がるようにこちらを見つめる金糸の髪の赤ん坊。



気付けば、カリダとハルマは亜麻色の髪の赤ん坊を。ウズミは金糸の髪の赤ん坊を抱きあげていた。

そして、何も怖くない、警戒する必要はないというように抱きしめたのだ。









「僕は・・・・僕たちにはやらなくてはいけないことがあります」
「ええ」
「少しは予想していたよ」


真っ直ぐ明るく育った息子の進む道に、きっと自分たちの手が及ばない場所へいくときがあるのではないか、と。

しかし、それは予想よりも早くて。



「今まで、出生も分からない僕を育ててくれて、本当にありがとう」
「キラ・・・・」
「父さんと母さんの、ハルマ・ヤマトとカリダ・ヤマトの子供として育ててくれて、ありがとうございました」
「キラ・・・・」


深々と頭を下げたキラは、頭を上げ、カリダとハルマに向かって笑みを浮かべた。

そして。



「2人の子供として育って、キラ・ヤマトとして育ったことは、何よりもの誇りです」
「・・・・・私たちも、お前を息子に持った事は何よりもの誇りだ」
「だから、僕はあなたたちに誓います」
「え・・・・?」


「最後のクウォメイカーとして、同胞の無念を晴らし、夢見た世界を築くことを」



「それが、キラ・ヤマトとしてのけじめです」


沢山の愛情と共に自分を育ててくれた2人に誓うこと。

それが、キラの決意。けじめなのだ。









BACK HOME NEXT