「で、ここをこうしたら・・・・・・」

「なるほど・・・・・・だからここがこうなるんですね」

「ああ。君は飲み込みが早いな」

「別に・・・・・・」



本心で言ったつもりであったが、イザークはそれを本心からの言葉とは思わなかったらしい。一瞬表情が不満気なものに変わった。それを見て、アスランの脳裏に在りし日の自分が過ぎった。









『流石はザラ家のお子さんね』

『本当に君は優秀だよ』

『ザラ君ってやっぱり特別だよね』









誰のどんな言葉を聞いても、それは自分ではなく自分の後ろに否がおうにも存在する"ザラ"の家。

詳しくは分からないが、彼も同じ立場なのかもしれない。



「ザラ先生?」

「・・・あ、すまない。これ、おれ達の代でも解けなかったぞ。皆」

「え・・・・」



気休めかもしれないが言わずにはいられなかった。

正しくは、解けないのではなく解かなかったのだ。普通にプログラム解析をするよりもとある企業やら行政機関やらに忍び込むほうが断然楽しかったからだ。

本当に、今思えば若かった。

そして、よくばれなかった、と自分たちを褒めたい。



「ザラ先生」



キーンコーンカーンコーン



イザークの言葉を遮るかのように無常にもチャイムは鳴った。

時計を見遣れば既に時刻は完全下校1時間前。本来ならばまだまだ活動する時間ではあるが、工学部は代々1時間前には部活を終了するという妙な伝統がある。

勿論OBであるアスランは知っている。良く知っている。なんせ、その伝統を始めたのがアスランたちの代だからだ。



「ジュール?」

「明日で、いいです。後片付け始めなくてはいけませんので」

「ああ」



一礼すると、イザークはアスランから離れていった。

今期の部長は今までとは全くさっぱり違ったタイプの人間のようだ。ここ数年はよく知らないがアスランが卒業してからの数年はどうもまともと一般的には言えない人種ばかりだったと記憶している。

自分の知らない数年に何かがあったのか、と首を傾げたくなるのも無理はないだろう。









「では、今日はこれにて解散する」

「「「「お疲れ様でした」」」」

数点あった諸連絡を終えると、恒例の挨拶を交わし部員たちは各々帰宅準備を始めた。既に部室を出た者さえいる。

アスランは代理とはいえ顧問なので戸締りをしなくてはいけない。



「先生、戸締りならば俺が・・・・」

「いや、いいよ。少ししたい事もあるし」

「え・・・」

「レポートの整理とか、ね。それに俺がいた頃よりも大分内容変わっているようだしな、これ」



軽く教師用のパソコンを叩く。レポートは家でやってもいいのだが、恐らく今日は無理だろう。父親が帰宅してくる日なのだ。月に1度、あるかないかの帰宅だ。

彼はアスランが後継となることを望んでいる。だから、アスランが教師となる道を選んだことを快く思っていない。

イザークはアスランの言葉の中にある巧妙に隠れたものを敏感に感じ取った。こういうことには長けているのだ。



「・・・・・・じゃあ、お願いします。また、明日」

「ああ。気をつけて帰れよ」



イザークの背を送ると、アスランは無意識の内に大きなため息をついていた。この年頃の子供は、何と言うか難しいな、と。今日1日の成果はこれだった。フレイのようなタイプもいれば、イザークのようなタイプもいる。

教師になるのは、心底なりたいと思ったからではない。

父親の、パトリックの跡目を継ぎたくないだけ。動機としては不純すぎる



「さて、レポートでもするか」



うーんと体躯を伸ばし、体をほぐす。

アスランは教師用のパソコンに向かった。立ち上げると、予想通りぞのスペックは過去のものよりも遥かによくなっていた。時代なのは仕様がない。技術はどんどん向上している。

レポートに用いるプログラムを立ち上げたとき、あるはずのない人の気配がした。何気なくそちらに視線をやると。



――――――――――そこにはキラが立っていた。



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