「ラクスさんと・・・・」

「フレイです。フレイ・アルスター」

「さっきからごめんなさいね」

「いえ、名乗ってないこっちが悪いんですし」

「ありがとう。二人はこの部屋でいいかしら?」



マリューに案内された部屋は、イザークとサイの部屋とは違い、ピンクを基調にした可愛らしい部屋だった。ベッドと机以外にも、ドレッサーがあり、壁紙もハートマークで描かれている。カーテンはチューリップの花柄で、フレイもラクスも不満な点はなかった。



「全然!」

「可愛らしいお部屋ですね」

「趣味なの。あっちはムウの趣味で、こっちは私」

「そうなんですか」

「ええ」



くすくすと笑あい、二人は室内に足を踏み入れた。机もいたってシンプルなつくりではあるが、花瓶に一輪花が生けてある。

マリューは居間で待っているわね、と言い残し先に戻っていった。

残されたフレイとラクスは、とりあえずどちらのベッドを使うか決めるとそれぞれのベッドに腰をおろした。



「疲れたーー」

「そうですわね」

「・・・・そういえば、ザラ君ってどこの部屋なんだろう?」

「そういえば・・・・・アスランは早々にフラガさんに連れて行かれましたものね」



あまり深く考えなかったが、アスランは一体どこに行ったのだろうか。気になりだすと止まらない。



「居間に行ったら分かりますかしら」

「分かるかもよ。行きましょう」



二人は立ち上がると電気を消して部屋を後にした。

そして、言われたとおり居間へと廊下を歩いていった。













「お、皆早いねー」



出迎えてくれたのは、料理を運んでいるフラガだった。フレイとラクスが到着する本の少し前にイザークとサイも来たらしく、彼らはまだ扉の辺りで立ったままある意味通行の邪魔になっていた。

マリューの姿は台所の奥に隠れている。しかし、アスランの姿は見受けられなかった。



「すみません、アスランは?」

「あいつならいつもの部屋行ってるからもう暫くかかるよ」

「いつもの部屋?」

「アスランには部屋あるんですか?」

「・・・・・正確には違うんだけどな。ほら、お前らがここに来たときにちょっと話題に上ったここで療養していた奴。そいつの部屋」



そうなんですか、とフレイとイザークが納得する反面、サイとラクスの瞳には翳りが浮かんだ。

ここは、アスランにとって思い出の地なのだろう。良くも悪くも、沢山の思い出が詰まった地。そして、居間彼がいる部屋は特にそれが強い部屋。



「ほれ、どこでもいいから席につきな」

「あ、はい」



フラガに促されて各々が席につき、夕食の準備が整ったころ、アスランが戻ってきた。

今までにないくらいの穏やかさを併せ持って戻ってきた彼に、フレイとイザークは瞬間言葉を失う。ラクスとサイは居間いるアスランを知っているから動じる事はなかった。



「遅れてすみません」

「いーえ。全然」

「お前も早く席につけって」

「はい、ありがとうございます」



かすかに浮かべる微笑は、綺麗と形容するにはもったいないくらいだった。

もともと顔の造形がよく、無表情のままでも人形めいた美しさを持っていたアスランだったが、笑うとこうまで印象が変わるのか、と半ば関心を抱かずにはいられない。



「そういえば・・・・ザラ君」

「何?アルスターさん」

「それ、やめない?」

「え・・・・・?」

「その、アルスターさんっての。なんか恥ずかしいのよね」



突然フレイが切り出すと、フレイをよく知る者たちは思わずといった感じに笑みを漏らした。イザークに至ってはまたか、とため息をつく。

アスランは目をぱちくりと瞬かせフレイを真っ直ぐと見ていた。



「それに、ラクスたちはアスランって言ってるんだから私もそう呼びたいなって」

「・・・何故?」

「その方が友達って感じじゃない!ねえ?」



振られたサイはそうだね、と肯定する。ラクスも然り。イザークは呆れた視線をフレイに向けながらも肯定を表した。

アスランは、思わぬ事に言葉が出てこなかった。



「で、駄目?」

「いや・・・・駄目ではないが」

「それじゃ、今から私はあなたのことアスランって呼ぶから、アスランはフレイって呼んでね」

「・・・・・」

「返事は?」

「はい」

「よろしい」



満足げに笑うフレイと困惑気なアスランのその対比に二人を除く一同は思わず声を立てて笑った。