夕飯も終わり、順番に風呂を頂くこととなった。順番は、フレイ、ラクス、イザーク、サイ、アスランだ。 最後のアスランが入っているとき、マリューとフラガは悪戯する子供のような笑みを浮かべて一冊のアルバムを手に携えて四人に話しかけてきた。 「ちょっと面白いもの見たくないか?」 「おもしろいもの、ですか?」 「ええ。・・・・・アスラン君の満面の笑顔」 「え・・・・・」 アスランの満面の笑顔、と言う部分で、それを知らぬものは目を見開いて固まった。今の彼を見ている限り、どうにも満面の笑顔というのは想像できないのだ。 それを見たことがある二人、ラクスとサイは困惑気な視線を送る。 「そう心配するなって二人とも」 「ですが」 「何時までもあのままって言うのも駄目でしょう。全開にしろとまでは言わないけど、世渡りできるくらいの愛想は持ってないと」 「それは、そうですが・・・・」 ずっとこのままで、というわけでは駄目なことくらいラクスやサイにも分かっている。しかし、あの時の慟哭を考えると今の状況は全然疑問が浮かばない。むしろ安心を覚えたくらいだ。 「・・・・・・・・・分かりました」 「ラクス?」 「別に隠し立てするようなことでもないですし。お友達同士の間に小さなものは別として大きな隠し事は駄目でしょう?」 さらりと言い切るラクスにサイは苦笑を浮かべ、肯定した。 マリューは四人の傍に腰をおろすと、手に持っていたアルバムを開く。まず飛び込んで来たのは茶髪の線が細く色が白い少年とも少女とも取れる子供の笑顔だった。 「これは・・・・・」 「この子が療養していた子。名前はキラ・ヤマト。男の子よ」 「そして、アスランの幼馴染兼親友で、唯一あいつに感情を与えることが出来た存在」 見開きのそのページには、キラの写真ばかりが貼ってあった。笑顔のアップや、本を読んでいる姿、自然と戯れているものも寝ているものもあった。 どの姿も心を惹きつけてやまない。興味を持たせる少年だった。 マリューが次のページをめくると、フレイとイザークはそのページを凝視したまま固まった。 そこには、キラを背後から抱きしめるアスランが写っていた。顔に浮かぶのは、満面の笑み。他の写真もそうだ。課題をこなしているものも、キラが抱きついているものも、手を繋ぎあって寝ているものも、全て感情豊かなアスランがいた。 「これは・・・誰?」 「誰ってアスランだよ。最低でも三年前の」 「これは四年前の写真よ」 「あの頃からちょくちょくここに来てたんだ」 「・・・・・四年前って言うと高二の頃?」 「だな。俺がここ教えてもらったのもやっぱり高二の頃だった」 アスランの表情は言うまでもなく、前のページに写っていたキラの笑顔のどれよりも、アスランと一緒に写っているキラの笑顔は輝いていた。 ふと、イザークが胸ポケットに仕舞っていた定期入れを取り出した。そして、その中に入れていた写真を抜いた。 「イザーク?」 「・・・・・男だったんだな、こいつ」 アルバムの上に差し出された一枚の写真には、キラの笑顔が写っていた。しかも、何故か腰辺りまであるウィッグを被っている上に衣装はスカートだ。 「あー・・・・・これ高二のときの文化祭の写真だ。このとき俺たちのクラス男子は女装、女子は男装する喫茶店したんだ」 「・・・・・サイも?」 「俺は作るほうだったから、免れた。キラとアスランは見目がいいんで思い切りさせられてたよ」 苦笑を浮かべるサイの頭には、当時の情景がありありと浮かんでいるのだろう。半ば開き直ったものの仏頂面のアスランや最後まで抵抗し、顔を真っ赤に染めているキラの姿。あの時は幸せだった。当時はそれが日常だったから何も感じなかったが。今となってみれば、あのときほど充実していた日々はない気がする。 「でも何でイザークがこの写真を?」 「ディアッカに貰ったんだ」 「ディアッカって・・・・・イザークの親友の?」 「・・・・・・お前の好みだろうって渡されたんだ」 「好みだったんだ」 「・・・・・・・・・五月蝿い」 ニヤリと笑うフレイにバツの悪そうなイザーク。フレイの言葉はどうやら図星のようだ。 「参考までに、こいつの前に立っているこの背中の女子はあいつか?」 「・・・・・ああ、うん。確かアスランこんな衣装着てた」 「そうか・・・・」 納得したように頷くと、イザークはいそいそとその写真を再び定期入れの中にしまった。どうやら彼にとってその写真はとても大切なものとなっているらしい。 「えーと、次めくるわね」 脱線してしまった話を戻すようにマリューガはそう言ってページをめくった。 そこには、前のページよりも元気がなく、逆に儚い印象を強くしたキラと、そんなキラを守るかのように穏やかな笑みを浮かべるアスランの姿が目に付いた。キラを所謂お姫様抱っこで抱き上げている写真や、頬にキスしている写真もある。その逆もまた然り。何より一番視線が集まったのは、アスランが頬を染めている写真。視線を伏せがちにしているが、頬は真っ赤だ。 |
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